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【アルコール依存症】井之頭病院・アルコール症センター(東京都三鷹市)

予備軍は約300万人
予備軍は約300万人(C)日刊ゲンダイ
とにかく断酒、教育入院が有効

 国内の多量飲酒者は980万人、アルコール依存症者とその予備群は294万人いるとされる。アルコール依存症は、放置していると失業や家族崩壊を招くだけでなく、肝疾患などから寿命を縮める怖い病気だ。

 同センターは、そのアルコール依存症の急性期の入院からリハビリまでトータルで支援する専門部門だ。センター長を務める奈良圭之輔副理事長は「治療で大切なのは、病気に対する認識や知識を深めること」と言う。

「アルコール依存も薬物依存と同じと考えなくてはいけません。そういう意味では、アルコールは最も依存性の高い薬物なのです。いつ誰がなってもおかしくありません」

 とはいっても、依存症を自覚できる人はそうはいない。次の6項目中、3項目に該当すれば受診した方がいいという。

①アルコールを飲みたいという強烈な欲求がある
②節酒が難しい
③アルコールをやめると手の震えや発汗、不眠などが出現する
④以前と同じ量を飲んでも以前のように酔えない
⑤一日の大部分を飲むために費やしてしまう
⑥精神的、身体的問題が悪化しているにもかかわらず断酒しない

 治療は「断酒」しかない。そのためには酒のない新しい生き方を習得する教育入院が有効。同センターでは、原則として1クール、3カ月間の入院期間を設けている。

「教育入院では、アルコールリハビリテーションプログラムを用います。アルコール依存症とどう向き合うか、断酒を継続するにはどうしたらいいか、在宅復帰のための方法を学び、考えるプログラムです」

 具体的には、医師やケースワーカー、栄養士、作業療法士による講義(勉強会)、同じ依存症の患者仲間の話を聞き、自己の問題を整理して話す訓練(ミーティング)、体を動かし、心身の快体験を通して断酒の効果を確認するOTプログラムなどを行う。自助グループへの参加も入院中から始めるという。

■退院後は1年間の通院ケア

「実際には、3カ月断酒できても退院後の継続は難しく、一般的には1年以内の再飲酒率は70~80%といわれます。当センターでは、退院後も断酒が継続できるように、1年間の通所(月~金)で社会や仕事への復帰を目指すアルコールデイケアも実施しています」

 これらの治療プログラムによる断酒率は個人差が大きく一概には言えないが、1年間断酒できると、その後も継続できる割合は高くなるという調査結果が出ている。ただし、10年、20年断酒できていても、1杯でも飲んでしまえば元に戻ってしまうという。

 アルコール依存症では、回復を見守る家族も病気を正しく理解することが大切になる。毎週土曜日の午前中に家族教育プログラム(参加費500円)も開かれている。

「アルコール依存症の患者さんの中には、荒々しい患者さんもいます。公益法人として当センターは、他病院が避けるような患者さんでも積極的に受け入れています」

 公益財団法人。精神疾患の治療とリハビリテーションの専門病院。
◆スタッフ数=医師41人
◆年間初診患者数(2014年)=908人(アルコール依存症の割合54.6%)
◆病床数=全640床(うちアルコール病棟170床)