独白 愉快な“病人”たち

女優・大空眞弓さん(75) 乳がん・多臓器がん

大空真弓さん
大空真弓さん(C)日刊ゲンダイ
乳房を失うことも「なぜ」でなく「そうなんだ」と受け入れた

 58歳で左乳房の全摘出手術をしたのが、さまざまながんの始まりでした。

 55歳の時、人間ドックで乳房の腫瘍が見つかりましたが、良性だったので様子見にしていたんです。ところが、2年半後の検診でそれが悪性に変わっていましてね。もともと病気ばかりしているから熱が39度ぐらいあっても平気なせいもあり、痛みも何も症状はありませんでした。ただ、メークさんに「肌の色がおかしい」って言われました。何かしら変化があったんでしょうけど、自分では全く気がついていませんでした。

■「乳房を失うことに落胆はありません」

 選択肢はほかにもありましたよ。私が切除を選んだ理由は、治療期間が短くて、再発の可能性がないから。当時は連続ドラマの撮影中で、1カ月後には舞台も控えていたので、仕事に穴をあけるわけにはいかない状況でした。しかも我が家は、がん家系。その後、心配しなくていいというのが一番いいと思ったんです。それで撮影の間に無理を言って10日お休みをいただき、入院しました。

 乳房を失うことに対して、落胆はしませんでした。私は何事も「なんで?」って思うことがないの。がんになると、なぜ病気になったのか、なぜ自分なのか、なんて考える方もいらっしゃるようですが、「そうなんだ」って受け入れる。考えても答えはありません。私のような考え方の方がむしろ珍しいでしょうね。

 乳房切除後はすぐに腕がスッと上がり、舞台稽古もいつも通り。特に病後だからと気にすることも一切ありません。乳房を切除したことも言わずに現場に戻りました。

 子供の頃は入退院を繰り返し、学校の体育の授業もまともに受けられないくらい病弱でした。そのおかげで、病院も注射も大好き。病院では医師の指示に従ういい患者ですよ。私の腕は血管が見えにくくて、点滴針を入れるのが難しいんです。けれど、「はいどうぞ」って差し出せば、最初は失敗しても、みなさん次第にうまくなりますよ。先生方だって人間ですから。信頼していれば、お医者さんも診やすいし、助けようと思って下さいます。

 私は何かあったら夜中でもすぐ病院に行くタイプ。市販のお薬は相性が悪い場合も多いので、主治医にすぐ相談します。人間ドックは半年に1回。受診したら次の予約を入れてきます。

■がんもほかの病気と同じ。その都度治療するだけ

 そうやって左乳房摘出後も定期健診を受け、61歳と62歳で胃がん、63歳で食道がんが見つかりました。食道がんの時は3カ月で5回切除しました。すべて内視鏡による切除で、手術自体はほんの2~3時間。麻酔が覚めたらその日のうちに帰宅して、翌日も普通に仕事です。切除後のお薬は一切なし。予後の心配をせず、仕事に打ち込めるのは何よりです。

 あえて節制することもありません。そもそも「体にいいから」と言い訳をして運動したり、食べるのが嫌。おいしいと思ったものを素直に口に入れるだけ。今は、焼酎の青汁割りを毎晩1杯飲みます。お酒が減った分、食事はちょっと増えちゃいましたね。最近、近所にステキな中華料理屋を見つけたので、今度また行ってみようと思っています。

 がんをことさら深刻に考えることはないと思います。その都度、見つけたら対処していくだけ。今の時代は、ほかの病気とさほど変わらないんじゃないでしょうか。そうおおらかにとらえた方が心穏やかに過ごせると思いますよ。

▽おおぞら・まゆみ 1940年、東京都生まれ。東京音楽大学付属高校在学中にスカウトされ、新東宝映画「坊ちゃん天国」でデビュー。「愛と死をみつめて」など、映画、ドラマ、舞台で活躍。