多発する健康被害 マッサージは安易に受けてはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 いまや、コンビニよりも多いといわれる「マッサージ店」。凝りや疲れを癒やすために気軽に利用しているサラリーマンも多いだろう。しかし、このところマッサージによる健康被害が急増している。安易に受けるのは危険だ。

 61歳男性のAさんは、肩凝りがひどく、首にも張りがあった。右腕に軽いしびれも出てきたため、軽い気持ちで近所の整体院を訪れた。首をグキッと急回転させる施術を受けたところ、全身にしびれと痛みが表れた。翌日になっても症状が続いていたため整形外科を受診すると、「脊髄損傷」と診断された。すぐに治療を始めたが、症状は改善しないまま。まともに歩くこともままならず、いまも日常生活に支障を来している。

 近年、マッサージを受けたことによる健康被害が多数報告されている。腰部脊柱管狭窄症、腰椎や胸椎の圧迫骨折、神経障害、内出血など、国民生活センターには、ここ5年間で1000件以上の相談が寄せられているのだ。

 いわゆる「マッサージ店」には、いくつも種類がある。施術者に国家資格が必要な「整骨院・接骨院」や「鍼灸院」のほか、民間資格や無資格でも開業できる「整体院」「カイロプラクティック」「リラクゼーションサロン」などが乱立している。中には、わずか数日~3週間程度の研修を受けただけで、施術を行っているところもある。

 無資格の“シロウト”による施術はもちろん、国家資格のあるなしにかかわらず健康被害は起こっている。安易にマッサージを受けるのは危ないのだ。

「綾瀬厚生病院」(神奈川・綾瀬市)理事長で、整形外科専門医の阿部聡氏は言う。

「手足のしびれや痛みといった症状がある場合、さまざまな疾患、とりわけ神経の病気が隠れている可能性が高いといえます。そうした病気による症状は、いくら押したり引いたりひねったりしても改善するわけがありません。健康な人の肩や背中などの筋肉の張りに対し、それをほぐして和らげる程度の施術なら大きな問題はないでしょう。しかし、しびれや痛みといった症状があるのに、安易に施術を受けるのは危険です。十分な診断能力を持たない施術者は、仮に病気が隠れていても分かりません。症状を悪化させたり、深刻なトラブルを引き起こす可能性があります」

■「首」は危ない

 もちろん、簡単な研修を受けただけで人体の構造や仕組みを勉強していないような施術者に、自分の身を任せるのはやめた方がいい。

「とりわけ、瞬間的に大きな力を加える動作をするような施術は避けてください」(阿部氏)

 マッサージの中でも、とくに注意したいのが「首」だ。

「東京脳神経センター」(東京・港区)理事長の松井孝嘉氏は言う。

「首には、呼吸、消化、脈拍、体温調節など、体全体の調子を整える働きをしている自律神経が通っています。首の筋肉は、脚、腕、腹などの大きな筋肉と違ってデリケートなので、むやみにマッサージをしたり、圧力をかけると筋肉を損傷してしまいます。首の筋肉に異常が起こると、自律神経の副交感神経がうまく働かなくなり、めまい、不眠、食欲不振、血圧上昇、動悸、倦怠感といった不定愁訴が表れます。さまざまな診療科の領域にわたる症状なので、病院をはしごしても治せません」

 不定愁訴が出現し重症になると、自律神経性のうつを発症したり、最悪の場合、自殺に至るケースもあるという。

「マッサージを受けるとき、首の周辺は必ず断ったほうがいい。自分で揉むことも避け、マッサージ器も首に当ててはいけません」(松井氏)

 首=頚椎を急激に回転させる施術は、厚労省が禁止を通達している。頚椎を圧迫するだけで、手足が動かなくなったり、呼吸器が麻痺して死亡する危険もある。マッサージは、慎重に受けるべきものなのだ。

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