医師もほとんど知らない「がん最先端放射線治療」の実力

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんの放射線治療は近年進化しているが、日本では医師の間でさえその有効性が十分に知られていないという。「『やみくも抗がん剤』にNo! 再発・転移がんと闘う方法」(講談社)の著者で「東京放射線クリニック」の柏原賢一院長に、これからの最先端放射線治療について聞いた。

【増感剤で治療効果をアップ】

 増感剤を使って放射線治療の効果を上げる方法だ。

「放射線治療の感受性が20%ほど上がると言われています」

 放射線治療には、がん細胞に対する「直接作用」と、がん細胞の周囲にある水分と反応して発生した生成物ががん細胞に障害を及ぼす「間接作用」がある。直接作用が3分の1、間接作用が3分の2ほどの割合だ。

「ところが、がんは大きくなると抗酸化酵素を作りだし、放射線の間接作用を不十分にします。つまり、放射線治療の3分の2を占める作用が無効になり、放射線治療の3分の1の力しか作用しなくなるのです」

 そこで研究で行きついたのが増感剤を用いての放射線治療だ。抗がん剤を増感剤として使う。

「通常量の5~6分の1の抗がん剤を飲み薬や点滴で用います。注意していただきたいのは、抗がん剤と放射線の併用治療とは異なる点です。併用治療では、抗がん剤、放射線のどちらの効果も期待しますが、副作用も大きい。一方、抗がん剤を増感剤として用いる場合、放射線治療の効果を高めることが目的で、抗がん剤の副作用が生じないレベルまで量を調整します」

 最初は「抗がん剤がいやだから放射線を選んだのに……」と渋る患者も、実際に受けると、抗がん剤の副作用がないことに驚くという。

【乳がんのコータック治療】

 これも増感剤の一種で、特に乳がんに対して行われている。放射線の間接作用を無効にする抗酸化酵素に対し、それを分解する過酸化水素と、過酸化水素をとどまらせるヒアルロン酸を患部に注射する。兵庫県立加古川医療センターの小川恭弘院長が高知大教授時代に発案し、高知大だけで200例以上、全国では500例以上が実施されている。

「放射線単独で行った時の3倍の効果になると報告されています。過酸化水素の安全性が高いことも利点です」

 7センチの乳がんが見つかってコータック治療を受けた55歳の女性患者は、1年3カ月経った今でも画像検査でがんは認められていない。柏原院長は手術や抗がん剤が適している患者にはその説明を十分にするが、「それでも手術は嫌だ」と言う患者には、コータック治療という選択肢があることを伝えるという。

【少数個転移がんに対するモグラ叩き療法】

 かつては「がんが大きくなることで転移する」と考えられていた。となると、「転移がんが見つかった=全身に転移がんが散らばっている可能性があり、長期予後が悪い」という考えに至る。しかし、最新の研究で「そうといえないのでは」という考えが出てきた。

「少なくとも転移がんが数個しか見つからないなら、その数個以外は“悪さ”をするまでは時間がかかるとみなし、まずは見つかった転移がんを放射線治療で確実に叩く。そして、次の転移がんが出てくればまた叩く。これが“モグラ叩き療法”と呼ばれている治療です」

 一般的に、原発巣から離れたところへの転移がんはステージ4で、抗がん剤治療となる。放射線治療は生存期間が延びるというエビデンスがないため、日本ではモグラ叩き療法を行う医療機関は少なく、保険適応にならない。しかし、欧米では有効性が高いと考えられ、現在、乳がん、前立腺がん、肺がんで4個までの転移に有効性を確認する臨床試験が実施されている。

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