がん治療を変える 日本発新免疫療法

免疫治療薬2剤併用で50%を超えるがん縮小効果

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 免疫によるがん攻撃に“待った”をかけているブレーキを解き、フルパワーでがん攻撃を行う――。

 これまで、免疫細胞に出現する「PD-1」分子に働きかけてがんを攻撃する画期的な新薬「オプジーボ」を紹介してきた。しかし、免疫チェックポイント阻害剤は他にもある。「CTLA―4」分子に働きかける「ヤーボイ」(一般名イピリムマブ)だ。

 この薬は、2011年3月に米国で切除不能または転移性悪性黒色腫に対する世界初の免疫チェックポイント阻害剤として承認され、現在は世界50カ国以上で使われている。

「オプジーボ」と「ヤーボイ」は、がん細胞により抑制された免疫細胞の働きを再び正常に戻し、がん攻撃を強化・再開する点では同じだが、その仕組みはまったく違う。

 そもそも免疫細胞が、特定した相手(がん細胞)のみをピンポイントで攻撃するには、免疫反応の司令官役である「ヘルパーT細胞」の働きを活性化しなければならない。そのためには、樹状細胞とくっついて敵の細胞か味方かを区別するための印となるタンパク質(抗原)を受け取り、攻撃態勢を整える必要がある。

 このとき「CTLA―4」分子が介在するとT細胞の活性化が抑制され、がんへの攻撃力が弱くなってしまう。

 一方、「PD-1」分子が介在するとT細胞の活性化の邪魔はしないものの、その後、活性化したT細胞の動きを抑制してがん細胞への攻撃をやめさせてしまう。

 つまり、「ヤーボイ」は弱まったがん細胞への攻撃を強化し、「オプジーボ」は中断したがん細胞への攻撃を再開させる働きがあるのだ。

 実はいま、この2つの「免疫チェックポイント阻害剤」を同時に使う治療法が世界中で注目されている。世界的権威のある医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」(2015年5月21日号)では、米国のがん研究グループが「オプジーボ」と「ヤーボイ」を同時に使うことで49歳女性の転移した悪性腫瘍を消失させた症例を報告している。

 それによると、この女性は4年前に4ミリ強のメラノーマ(悪性黒色腫)が背中にできて手術で取り除いたものの、2年半後に再発。さらに3年7カ月後に左胸に転移が認められた。2つの薬を3週間使ったところ、使用後6週目のCT検査で2つの腫瘍の消失が確認されたという。

 この研究チームは、これまで治療を受けたことのない進行メラノーマの患者142人を対象にした別の実験結果も報告している。①2剤を使った後に「オプジーボ」だけで治療、②「ヤーボイ」と偽薬を使った後で偽薬だけを使う。それぞれのケースを比較したところ、2剤併用の効果が認められたという。また、「BRAF」遺伝子変異により効果に差が出ることも報告している。

 同様な研究は他にもあって、末期のメラノーマの症例で53%に劇的ながん縮小効果があるとの報告もある。

 米国食品医薬品局(FDA)は昨年10月1日、「オプジーボ」と「ヤーボイ」の併用療法を承認した。