がん治療を変える 日本発新免疫療法

米国では「経済毒性」が話題に

 毎年5月末に開催され、世界中から3万人近いがん研究者が集まる「全米臨床腫瘍学会」(ASCO)。世界最大級のがん学会で、ここ数年、最も注目を集めているのが驚異の治療成績を誇る免疫チェックポイント阻害剤だが、その経済的デメリットも話題になっている。

「免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた治療を、毎年がんで亡くなる米国人50万人に投与すると、わずか1年で1740億ドル(約20兆円)もの薬剤費がかかる。そんな試算も発表されています。また、『キートルーダ』と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤でメラノーマ(悪性黒色腫)を治療すると、1人当たり年間単剤治療費だけで100万ドル(約1億1000万円)以上になるとの米国医師の発表もありました。米国内では『高価な薬剤による治療を選択すべきではない』との意見も出ています」(首都圏の腫瘍内科医)

 実際、医療費が高いことで知られる米国では、がん患者の2%は高額な治療費が払えず自己破産し、10人に1人は年間1万8000ドル(約200万円)を治療費に費やすといわれている。今後はそれがさらに拡大するとの懸念があるのだ。

■2つのがん種では個人負担額は欧米より割安に

 日本ではどうか? 公的医療保険が充実している日本では、手術不能な悪性黒色腫のほかに切除不能な進行・再発非小細胞肺がんが適応拡大となった。そのため、この2つのがん種については適応さえあれば、個人の負担額は欧米よりも低く抑えられる。

「薬代はメラノーマ(体重60キロ)の場合、1回88万円強で、患者さんの自己負担額はその一部ということになります。むろん、新薬である免疫チェックポイント阻害剤の費用を公的保険で賄う以上、安全のため入院して投与するのが望ましい。ところが、DPC(包括医療費支払制度)病院では、入院下で免疫チェックポイント阻害剤を使うと薬代の半分が病院の負担になるとの指摘があり、一時、騒ぎになりました」(医療ジャーナリスト)

 つまり、全国の2割強を占めるDPC病院では「免疫チェックポイント阻害剤を使えば使うほど赤字になるので、治療を受けられないのではないか」との不安の声が上がったのだ。しかし、いまは免疫チェックポイント阻害剤をDPCの対象から外して「出来高制」にすることで、不安は解消している。

 おかげで個人や病院の費用負担は下がったものの、そのツケは国の財政に跳ね返ることになる。そのせいか、最近の免疫チェックポイント阻害剤の報道には、副作用と慎重投与を強調する論調が目立つ。将来も誰でも気軽に手を出せる薬であり続けるのは難しそうだ。

 免疫チェックポイント阻害剤は、がん治療に新しい扉を開いた画期的新薬であるのは間違いない。しかし、お金という足かせにつながれた庶民にとっては、手の届かない夢の薬なのかもしれない。