2006年からの診療報酬改定に、病院での看護師不足解消のための施策が盛り込まれた。それが「7対1病院」への優遇だ。それまでは、入院患者10人に対して看護師1人の医療施設を優遇してきたが、さらに7人の入院患者に1人の看護師を配置する、いわゆる「7対1病院」の入院基本料をアップすることになった。
これは、力のある病院にとって収入アップのチャンスになる。看護師の待遇を厚くし、激しい人材争奪を演じる余裕があるからだ。ところが、そうでない中小病院ではより看護師不足の深刻度が増すことになる。
実はいま、この看護師不足により、中小の医療機関では思いもよらぬトラブルが頻発しているという。「よどがわ内科クリニック」(大阪市)の理事長で元参院議員の梅村聡医師が言う。
「一般の方はご存じないでしょうが、労働者派遣法によって、看護師などの医療従事者の人材派遣は禁じられています。病院が直接雇用しない人材派遣では、命を預かるための『医療チーム』としての質が保てないとの理由からです。そのため、病院が看護師を必要とするときは、人材紹介業者にお願いしますが、最近は悪質な人材紹介業者が跋扈して、医療機関の経営を苦しめているのです」
その手口はこうだ。看護師の資格は持っていても協調性がなく、モンスターペアレントのナース版のような看護師がいる。そうした人たちを故意に紹介することで、医療機関にダメ出しをさせ、新たな看護師を紹介することで、多額の手数料を懐に入れているという。
「人材紹介業者は派遣業者と違い、病院と看護師さんがいったん雇用関係を結べば、あとは責任がなく知らん顔できる。仮に医療機関がダメ出しした場合、派遣業者は責任をもって別の人を派遣する義務があるが、人材紹介業にはそれがない。なのに手数料は高額です。仮に看護師の年収が400万円なら紹介料は2割の80万円。これはすべて医療機関の負担です」
悪徳紹介業者の中には「プロの悪徳看護師」と結託し、転職を繰り返させる例もあるという。
人材紹介業者の斡旋で就職した人が自己都合で転職の場合、半年までは人材紹介業の責任で賠償対象になる。しかし、1日でも過ぎると責任はない。
「笑い話のようですが、半年と1日過ぎたところで、隣の医療機関に転職する看護師もいるという話も聞きました。こうしたことが医療機関の負担になり、看護師不足と労働負担を重くしています。これらのコストを看護師の待遇改善、医療器具などの設備投資に回せれば、結果的に患者さんのためになるのです」
もちろん真面目な人材紹介業者もいるが、最近は悪徳人材紹介業者が目立ち、病院協会でも深刻な問題になっているという。
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