膵臓がんは近年増加しているがんで、「厳しいがん」として知られる。しかし、それが今後は変わるかもしれない。国立がん研究センター東病院肝胆膵内科・橋本裕輔医師に聞いた。
【3~5ミリの膵臓がんを発見できる検査登場】
それは、超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)だ。
膵臓がんは10ミリ以下で発見されると5年生存率が約80%だが、20ミリになると50%に下がる。ほとんどが20ミリ以上で症状が出てから発見され、約80%は手術不能。年単位の余命が見込めない患者も少なくない。
「膵臓は、従来の超音波では小さな異変や膵臓全体を確認することが困難。しかも、腫瘍の有無を調べる腫瘍マーカーも早期では上昇せず、進行しても30~40%が陰性になるから発見が遅れてしまうのです。健診で『健康』と判定されても、膵臓がんがないとは言えません」
それでもなんとか早期に発見するためには、どうすべきか?
まずはMRI検査を受ける。膵臓がんは膵管から発生するが、MRIなら膵管の異変や嚢胞(液体の貯留)がハッキリと分かる。一般的にはCT検査を受けがちだが、10ミリ程度の早期の場合、分からないことが多い。
MRIで膵管の異変や嚢胞が確認されたら、次は超音波内視鏡の検査だ。通常の超音波とは違い、胃に挿入し、膵臓に高周波の超音波を当てて解像度の高い画像を撮影する。
「膵臓全部を調べられ、3ミリ前後までの腫瘍をチェックできます」
もし腫瘍が見つかったら、内視鏡を通して針を膵臓に刺し(穿刺)、細胞を取り出す(吸引)。この一連の流れが、冒頭で挙げた「EUS-FNA」になる。
膵臓がんの90%は腺がんと呼ばれるタイプだが、別のタイプもある。抗がん剤の種類や治療方針が同一ではないので、穿刺と吸引で組織診断をしないと患者の予後にかかわる。これは乳がん、胃がん、大腸がんも同様だ。
これらの検査で膵臓がんと確定診断されれば、手術など最も適した治療が行われる。早期であれば、前出の通り、5年生存率も高くなる。
EUS-FNAは2010年に保険適用になり、行っている医療施設が増えているが、押さえておくべきことがある。
「我々が小さな異変を見落とししないようにするには、超音波内視鏡検査のトレーニングを積むことが必要です。もちろんEUS-FNAでも同じことで、トレーニングが不十分であると正しい検査結果を得られるとは限らないのです」
【リスク因子が分かってきた】
最近、膵臓がんの高リスク因子が明らかになってきた。「膵臓がんの家族歴」「糖尿病の発症またはコントロール不良」「慢性膵炎」「膵嚢胞」だ。
「特に意識してほしいのは糖尿病です。血管の病気という認識の方が多いですが、糖尿病は膵臓に関連した病気で、新たに発症したり、血糖コントロールが悪ければ膵臓がんの発症を疑うことが重要です」
糖尿病の人は膵臓がんのリスクが2~3倍高いというデータがあるが、実際はもっと高いのでは、という指摘もある。
慢性膵炎はほとんどがアルコールが原因になる。先に急性膵炎を起こし、何年か後に慢性膵炎に至っている例が大半。食後にみぞおちや背中が痛んだ経験がある人は要注意だ。
膵管拡張や膵嚢胞は健診などでよく発見され、膵臓がんのリスクを6~20倍上げる。
「いずれかがある人は、せめてMRIによる検査、できれば超音波内視鏡の検査を1~2年に1回受けた方がいいでしょう。膵嚢胞は専門機関でフォローアップをする。さらに、家系に膵臓がんがいる方もリスクが高いので注意が必要です」
膵臓がんに負けないためにできることとは、リスク因子を知り、正しい検査を受け、早い段階で治療を始めることしかない。