医療数字のカラクリ

「臨床試験」とはすなわち「人体実験」である

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「人体実験」を行うこと自体が倫理的でない可能性がある。これは、実験台になる人に危険が及ぶことを考えれば理解しやすいことでしょう。しかし、逆に「人体実験を行うことこそが倫理的である」という面もあります。

 少し分かりにくい話題ですが、重要なことなので、何とか分かっていただけるように解説したいと思います。

 繰り返しになりますが、人間に使われる治療は、人間でしか効果や危険性を検討できません。人体実験を行わずに試験管や動物実験で効果が検討されたに過ぎない治療を、いきなり人間で使用することこそ非倫理的です。犬で効果があった治療だからといって、人間で同じように効果があるかどうか分かりません。

 サルで大きな害がなかったからといって、人間で害がないとは限りません。当たり前のことです。だから、人体実験を行うことこそが倫理的に必要です。新しい治療法を倫理的な手続きで採用するためには、人体実験で害を上回る効果があるかどうか、人間を対象に検討することが不可欠なのです。

 それでも「人体実験は許せない」という人がいるかもしれません。もちろんそれもひとつの意見ですが、人体実験を拒否するということは、医療の進歩も拒否するに等しいということです。

 ただ、医療はこれ以上進歩すべきでないと言われれば、確かにそういう面があります。

 ここまで説明を加えてきた人体実験は、一般には「臨床試験」と呼ばれます。言い方を変えるだけで、何かそれほど悪いものではないような気がします。しかし、「臨床試験」は「人体実験」であるということ、これは医療の効果を測るときに決して忘れてはならない重要なことだと思います。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。