しっかりした「医療安全対策」が実践されている病院かどうかを見極めることは、患者さんにとって非常に重要です。最悪の場合、それが自分の命に関わるケースもあるからです。
医療安全対策についての教育や意識が、すべてのスタッフに浸透している病院なのかどうか。それを患者さんが確認するには、まず、病院内に「安全対策室」のようなものが設置されているかどうかをチェックすることです。近年は、多くの病院で医療事故防止に力を入れるようになってきています。医療安全対策にしっかり取り組んでいる中規模以上の病院ならば、必ず「安全対策」のための部門があるはずです。病院の受付で、そういったものがあるかどうかを尋ねてみるのもいいでしょう。
また、第三者機関から「病院機能評価」の認証を受けているかどうかを確認する方法もあります。私が勤務している順天堂大学医院は、昨年12月に国際的な病院機能評価機構「JCI」の認証を取得しています。JCIは、米国のシカゴに本部がある国際的な病院機能評価機構で、世界基準で患者さんの安全性が確保されているか、適正な高度医療が提供されているかを詳細な項目で厳格に評価する非営利の団体です。現在、日本では17施設が認定を受けていて、年々増えていく予定です。
こうした機能評価の認証を受けていれば、病院のどこかに標榜してあるはずですし、一定レベル以上の医療安全対策が病院全体に浸透していると判断できます。
■「二重チェック」で確認作業
ほかには、医師や医療スタッフから説明を受けたり行動を見たりしたときに、「何かおかしいぞ」と感じたら、スタッフに「この病院では、どんな医療安全対策への取り組みをしているのでしょうか」と確認したほうがいいでしょう。
医療安全対策にしっかり取り組んでいる病院では、患者さんを取り違えたり、誤認しないようにするため、二重のチェックで確認作業をしています。患者さんと接触するときは必ず手袋を着けたり、転倒リスクが高い患者さんに対しては複数の人間でカバーしたり、さまざまなところで患者さんの安全を守るための行動が徹底されているものです。
電車に乗ると、出発する際などに車掌さんが指さし確認をしています。工事現場ではまず朝礼をしてから作業を始め、逐一、指さし確認や声掛けをしています。こうした、ちょっとした安全確認の行動やしぐさをしているかどうかは非常に重要です。命に関わるような大きな事故を起こす可能性があるところほど、確認や点検の作業が徹底されています。それを行うことが重大事故の防止につながるというエビデンス(科学的根拠)があるからで、これは病院も同じなのです。
近年、いい病院選びの目安として定期的に出版される「病院ランキング」では、治療の専門性、症例数、手術数といった項目が重視されています。
しかし、これからは「院内感染防止も含めた医療安全対策に、病院全体でしっかり取り組んでいるか、第三者評価を受けているかどうか」といった項目も組み込んでいくべきです。
治療や手術の質がしっかりしていることは大前提ですが、場合によっては術後の入院のほうが長くなるケースもあります。そうなったとき、患者さんにとっては、医療安全対策がきちんと実践されている病院かどうかという点がより重要になってきます。たとえ手術が完璧だったとしても、不十分な安全対策が要因となって、入院中に思わぬトラブルに見舞われる危険があるからです。
自分の身を守るため、患者さんも医療安全対策の重要性をしっかり把握しておく必要があります。
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