どうなる! 日本の医療

49歳以下の外科医不足から医療崩壊が始まる!?

(C)日刊ゲンダイ

 医者の花形といえば外科医だ。がんの根治治療の基本は外科手術だし、外科医がいないと心臓治療も脳手術も不可能だ。

 ところが、その外科医を希望する若手医師が極端に減り、日本医療が危機にさらされつつある。そうした現状を訴え、外科医増に向けて努力しているNPO法人「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」(東京都)の副理事長で国際医療福祉大学の北島政樹学長が言う。

「外科手術によってのみ救える命が数多く存在します。ところが、04年を境に外科医不足が顕著になってきた。このままでは数十年先、日本で心臓移植、がん手術などができなくなる。その危機感から09年にこの法人を立ち上げたのです」

 厚労省のデータによると、日本の医師数は96年から06年までの10年間で23万人から26万3000人と14.4%増えた。ところが、外科医は3・3%しか増えていない。

「それでも増えているならいいじゃないか」と思われがちだが、中心となるべき30~49歳の外科医数は減り続けており、とくに29歳以下の外科医数は極端に低い。94年の18%から06年に5%、最近はその半分以下にまで減っている。

「減少理由のひとつは04年にスタートした新臨床研修制度導入で、新人医師は従来の医局に縛られることなく自分の好きな科目で好きな医療機関を選択できるようになったこと。その結果、新任医師は最新医療機器を備え、最新論文がふんだんに読める都会の大病院に集中した。その中でも3K、つまり、きつい、汚い、厳しいとされる外科医を避ける新人医師が増えたのです」

「きつい」とは、手術などのために70~80時間勤務は当たり前といわれるほど医師の中で最も労働時間が長いこと。「汚い」は開腹手術などで、常に血と汗まみれになること。「厳しい」は訴訟リスクが最も高いこと。日本外科学会資料では、05年度の医療関係訴訟1032件中トップは産婦人科だが、2位の外科と3位の整形外科を合わせるとダントツで多い。

 NPO活動の基本は、①訴訟リスク軽減のため無過失補償制度の創設。低報酬待遇改善。②医学生・若手医師を対象の外科手術セミナーや小・中学生を啓蒙するKidsセミナー等の実施。③メディアを通じ、外科医の危機的状況とその改善策について情報発信・問題提起だ。

「これからはチーム医療がメーンの時代。ひとりの専門医ではどうしようもありません。麻酔医、放射線技師、看護師、内科医、そして外科医が一体となって治療する必要があります。その中心となるべき外科医は、日本の医療のベースを担っているのです。いまは、その外科医のダイナミズムと素晴らしさを訴え、外科医不足から起きるであろう日本医療の崩壊に楔を打ち込みたいと考えています」

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。