オトナの社会講座

いっこく堂もこれで失神 医師に聞く“迷走神経反射”の怖さ

右はいっこく堂
右はいっこく堂(C)日刊ゲンダイ

 持病がないのになぜ─―。不安に思った人は少なくないだろう。腹話術師のいっこく堂(52)が20日、自宅の廊下で失神して倒れ、外傷性くも膜下出血と脳挫傷で救急搬送されていた。幸い命に別条はなく、1週間ほどで退院するという。

 倒れた原因は迷走神経反射とされる。それは誰にも、どこでも起こり得るから厄介だ。聖路加国際病院内科名誉医長で、「西崎クリニック」院長の西崎統氏に聞いた。

「交感神経と副交感神経からなる自律神経は、どちらもいくつもの神経の総称で、迷走神経は副交感神経のひとつ。ストレス時に働く交感神経と対をなし、心拍数や血圧を下げたり、消化を促したりする働きがあります。通常は、どちらかが過剰にならないようにバランスを取っているのですが、それが崩れて、迷走神経が過剰に興奮すると、一時的な血圧低下や脈拍低下により、脳への血流が悪くなり、失神するのです」

 診断名は難しい名前がついているが、病気のメカニズムは低血圧の人が朝礼などでバタンと倒れる起立性低血圧と同じ。特に上(収縮期)の血圧が100mmHgより低い、中年以降の人に起こりやすいが、それだけではない。誰でも発症する可能性があるという。

「共通項としては、強いストレスにさらされた状態です。ただし、一口にストレスといっても状況はさまざま。残業や寝不足を重ねた結果、疲労が積もり積もって朝の通勤ラッシュで座れず、立ちっ放しになるのが引き金になったりする。トイレにこもってふと立ち上がろうとしたときや、朝にベッドから起きようとして倒れる人もいます。血を見るのが苦手な人だと、採血後にフラッとする。倒れる前に血の気が引くようにフラッとして、汗が出たり、吐き気がしたりしますが、それで治まれば軽症。症状は脳血流の低下の度合いによって左右され、重症が失神です」

 いっこく堂は普段、酒を飲まないものの、その日は梅酒を2~3センチ飲んだため、ちょっと気持ちが悪かったという。飲酒が原因になることもあるのか。

■酒のストレスが引き金になる 

「下戸の人にとって、飲酒はストレスです。それでいて、アルコールの作用で血管が拡張され、血圧が下がりやすい上、飲酒による脱水も重なります。今回のケースは、飲酒によって引き起こされた可能性は十分あり得ます」

 新入社員歓迎の花見が危ない。万が一、失神しても意識を失うのはせいぜい1分程度だが、概して前のめりに倒れるので、顔をぶつけて大ケガになりやすいという。

 いっこく堂はその後、吐き気や頭痛に悩まされたようだが、その症状は外傷性くも膜下出血によるものとみていいだろう。

 では、予防法はないのか。

「引き金となった状況を調べて、それを取り除くことが一番です。飲酒後に調子を崩すことが多ければ、酒量を控える。起床時なら、血行を良くする弾性ストッキングを着用するなどですね」

 血管を拡張するタイプの降圧薬を飲んでいる人が多発する場合は、薬の変更を考えた方がいいという。