Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【南果歩さんのケース】乳がん 8割は乳房を温存できる

 夫婦の力なのでしょうか。女優の南果歩さん(52)が今月11日に乳がんの手術を受けていたことを告白しました。夫で俳優の渡辺謙さん(56)が早期胃がんを発見して手術を受けた直後です。

 一連の報道によると、南さんの乳がん発覚は2月下旬。そのころ、先日最終回を迎えたドラマの収録が続いていて、仕事の傍ら、夫を看病していた時期と重なります。それでもプロ根性で休むことなく撮影を続行。すべての収録を終えて手術に臨んだようです。

 当時、渡辺さんは妻と娘のアドバイスで人間ドックを受診。家族に救われたいきさつが話題になりました。南さんはその時のことを引きながら、ブログにこうつづっています。

「謙の命を救ったのではなく、私の方こそ謙の病から救われた命です」

 夫の胃がん発覚で、自らも人間ドックを受診。そんな用心した心掛けが早期の乳がん発見に結びついたようなのです。こういうことを夫唱婦随というのでしょう。

■12人に1人が発症

 さて、乳がんは主に乳管にできるがん。乳房を温存できる進行が遅いタイプと、進行が速く転移や再発を起こしやすいタイプがあります。その比率は4対1で、温存できるタイプの方が多い。前者は、進行が遅く、2年に一度のマンモグラフィー検査を受けていれば、まず大丈夫です。

 一方、昨年乳がんを告白したタレントの北斗晶さんは、2年前の秋の検診でがんが見つかっておらず、その後3~4カ月で進行したようで、後者の進行が速いタイプでしょう。後にリンパ節の転移も判明しています。

 どちらのタイプかは、疑わしい部分の組織を一部採取して、悪性度を調べれば分かります。南さんの乳がんの悪性度がどうなのかは分かりませんが、手術された決断を踏まえると、後者だったのかもしれません。だとすれば、早期発見を可能にした夫婦の力には、目を見張るものがあるでしょう。

 しかし、注意も必要です。日本乳癌学会のHPにもあるように、悪性度が高いタイプは、2~3年で再発することが多いといわれます。実は、そういう“再発の芽”は、最初の乳がんが発見された時、すでに別の部位にありながら、検査で見つからないほど小さく、見落とされやすいと考えられているのです。

 ですから、乳がんの術後は定期的な検査で再発をチェックすることが不可欠。もうひとつは、自分で乳房を触ったり見たりするセルフチェック。パートナーによる触診も大事です。

 乳がんの新規発症者は約6万5000人。女性は12人に1人が発症します。女性のがんのトップが乳がんですから、乳がん予防のためにも男性のサポートが欠かせません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。