薬に頼らないこころの健康法Q&A

実習先で尊敬できる人に出会えない看護学生

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 たしかに、すべての看護師がはつらつと仕事をしているわけではありません。燃え尽きている人はいます。張り切ってこの世界に入ってきた娘さんが、燃え尽きた人を目にするのはつらいことでしょう。当面は、「こんな看護師になってみたい」と思わせるようなロールモデルに出会えないかもしれません。

 でも、ともかくその実習先で学べるものだけは学んでおきましょう。娘さんの目に最悪として映る看護師といえども、一定の技術は持っています。長年、看護の現場で働いている人たちなので、経験に基づく実践知は持っています。それだけを学べばいいのです。

 大切なことは、一部の看護師だけを見て、その印象を一般化しないことです。たまたま実習先であてがわれた指導者が尊敬できないとしても、だからといってすべての看護師が尊敬に値しないわけではありません。

 ただし、看護の現実の荒々しさに触れながらも、依然として理想を持ち続けることは容易ではありません。そのようなときには原点に返ってください。フローレンス・ナイチンゲールのクリミア戦争の際の活躍を振り返ってみます。ナイチンゲールは高度の教育を受けていた人で、その視点から看護にも専門的な知識と合理的な思考が必要だと考えていました。彼女が勤めた野戦病院も、燃え尽きた看護師たちばかりでした。混沌と無力感が現場を支配していました。

2 / 3 ページ

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。