当事者たちが明かす「医療のウラ側」

米国心臓協会らが選んだ「最も先進的な研究ベスト10」とは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
都内の40代内科医

 米国心臓協会と同国脳卒中協会が、昨年発表された血管に関する研究論文の中から、最も先進的な研究ベスト10を発表しています。一般の方にも参考になる内容だと思うので、今回は上位3位までをご紹介しましょう。

 1位に輝いたのは米国立心肺血液研究所が発表した大規模臨床研究(SPRINT試験)の解析結果です。この研究は厳しい血圧管理がいいのか、緩い血圧管理がいいのかを調べたもの。対象は、上の血圧(収縮期血圧)が130mmHg以上ある50歳以上の人で、心血管病の既往のある人、慢性腎臓病を合併した人、75歳以上の人など9250人です。

 その結果、平均3種類の降圧剤を処方されている「120mmHg未満」の群の方が、「140mmHg」群より心筋梗塞や脳卒中の発症回数とその関連死は30%低下し、全死亡率も25%低かったのです。しかも、この研究は2018年まで続く予定でしたが、明らかに血圧を低くした方が有益であるとの結果が出たため、打ち切りになったそうです。

 これを見る限り、日本の最新の「高血圧治療ガイドライン」が、降圧目標を「130/80mmHg未満」から「140/90mmHg未満」に緩和したのは勇み足のような気がします。しかし、報告では降圧目標を厳しくした結果、低血圧によるめまい、立ちくらみなどがあり、転倒による大けがの可能性も高くなる。今後、日本の各医学会がどのような指針を示すのか、注目です。

 2番目に選ばれたのは、糖尿病治療にSGLT2阻害薬を上乗せすることで2型糖尿病の心血管イベントが減少し、その死亡リスクも38%低下したという「EMPA―REG OUTCOME」試験です。42カ国、590施設が参加、心血管イベントのある2型糖尿病約7000人を対象とした試験の結果です。

 これまでの糖尿病の薬は「血糖値は下げても、心筋梗塞などの心血管イベント死リスクの低下や長寿に寄与を明確にするものはほとんどない」といわれてきました。その意味では糖尿病治療の“大事件”であることは間違いありません。

 3位に選ばれたのは、急性期の脳梗塞に対する血管内治療の有効性を示した「MR CLEAN試験」です。「(日本では2005年に保険適用された血栓溶解剤)t―PA以来の脳卒中治療の進歩」ともいわれているほど高い評価を得た研究です。

 通常の治療+血管内治療群(233人)と、通常の治療群(267人)とを比較したところ、前者の方の成績が良かったというもの。医学の常識は日々変わっているので、患者さんも最新情報に注意が必要です。