健康診断では分からず 日常動作が失神招く「危険な病気」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 急に気分が悪くなって、意識を失い倒れてしまう。その2次被害で「外傷性くも膜下出血」と「両側前頭葉脳挫傷」を発症した、いっこく堂の話を持ち出すまでもなく、失神は思いもよらぬ事態をもたらす。日本では推定年間79万人が失神していてその背後には病気が隠れているが、ちょっとした日常動作が失神を招く病気もある。注意したい。

 畔柳美千代さん(53歳=仮名)は昨年10月ごろから後頭部に痛みが襲った。手の先がしびれるような感覚があり、気が遠くなるような感覚があった。「脳梗塞」を疑い、近くのクリニックで相談したが「異常なし」。

 ほどなくして、お風呂場で髪を洗っている最中に気を失い、救急車で運ばれた。東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授が言う。

「畔柳さんの病気は鎖骨下動脈盗血症候群でした。腕に向かう鎖骨下動脈の付け根が狭くなり、反対側からつながっている脳へ行くべき血流の一部が腕に流れてしまうことで脳が血液不足になってしまう病気です。脳に行くべき血液が腕に盗まれるため、盗血という言葉が病名に付けられています」

 鎖骨下動脈には右と左があるが、大動脈に連なる左鎖骨下動脈の方が詰まりやすい。左腕を胸より高いところに上げたときに症状が出ることが多いので、洗濯物を干していたとか髪を洗っていた、あるいは高い所にあるものを取っていたときなどに発症しがちだ。

「患者さんが自覚できるハッキリした前兆はありませんが、喫煙や肥満など動脈硬化リスクが高い人がかかりやすい。血圧の左右差があり、鎖骨下動脈に雑音がする特徴があります」(東丸教授)

■失神の原因は3種類

 そもそも失神とは、血圧の異常低下などにより、脳全体の血流が減ることで引き起こされる一時的な意識障害のこと。多くは危険性の低い失神だが、なかには命に関わるヤバい病気が潜んでいることもある。

 サラリーマンの病気に詳しい、弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「失神は脳への血流が6~8秒途絶えたり、収縮期血圧が60㎜Hgに低下したり、脳への酸素供給量が20%低下するだけで起こります。その原因は①起立性低血圧による失神②心血管性失神③反射性失神に大別できます。①はパーキンソン病や糖尿病や脊椎損傷、尿毒症に伴うもの、抗うつ剤、血管拡張剤などの薬によるもの、がんなど消化管からの出血や下痢・嘔吐に伴うものが含まれます」

 ②は激しい運動中に起こる「大動脈弁狭窄症」のほか、「肺塞栓症」「くも膜下出血」などで発症する。むろん、失神の背景にあるこうした病気はヤバいが、厄介なのは日常動作で起きる失神だ。

「例えば③の反射性失神です。この失神はさらに3つに分かれ、恐怖や痛みなどの感情ストレスや長期の起立が引き金になる『血管迷走神経性失神』、くしゃみなどで起きる『状況失神』、それに『頚動脈洞過敏症』に分かれます。大量飲酒後に起きる『排尿失神』、高齢女性の切迫した排便や腹痛を伴う排便で起きる『排便失神』は『状況失神』に含まれます」(林院長)

 頚動脈洞は首の付け根にある血圧と脈泊数をコントロールするセンサー。圧迫すれば脈が遅くなる。

「ただし、過敏症の人はひげをそるのに首を曲げたり、伸ばしたり、マッサージを受けたり、ネクタイを強く締めただけでも失神することがあります」(林院長)

 失神を防ぐことは簡単ではない。意識が遠くなりかけたら、しゃがみ込んで2次被害を軽くすることだ。

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