天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

殺しのライセンスが与えられているから許されないことがある

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

「わかりました! 死んでも離しません!」

 心臓手術の最中に想定外の出血が起こったとき、私は「しっかり押さえて出血を止めておけ! いま押さえているところは絶対に離すな!」とゲキを飛ばします。すると、手術チームのスタッフは必ずそう答えます。

「患者さんの命を救うためなら自分の命を踏み台にすることも辞さない」――。医師にとって絶対に必要な犠牲的精神を日頃からスタッフに叩きこんでいるからです。人の痛みを取り除く職業である医師には、「自分自身の後先は考えることなく、この人を絶対に助ける」という情熱が不可欠です。私は、若い医師たちが「手抜き」をしたら容赦しません。「この程度でいいだろう」「これで仕方がない」などと妥協すれば、治療にも甘えが生まれるからです。

 人間は楽をしようと思ったらいくらでも楽をします。患者さんを前にして楽をするということは、医師の資格がないということです。われわれ医師のライセンスというものは、全国どこでも国が保証してくれる“通行手形”のようなものです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。