天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

殺しのライセンスが与えられているから許されないことがある

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 また、ちょっとうっかりして患者さんを死なせてしまったなんてことも絶対にあってはいけません。これは、他の職業であれば業務上過失致死罪に当たる犯罪で、逮捕されます。医師は「自分たちだけがそうではないのはおかしい」ということを常に感じていなければいけないのです。

 しかし、医療の世界で過ごしているうちに、「おかしい」と思う感覚がどんどん薄れていくこともあるのです。そうなると、しっかりしたエビデンス(科学的根拠)がない腹腔鏡手術によって18人の患者さんを死亡させてしまった群馬大学病院のような事故につながります。

 むちゃな生体肝移植を受けた患者10人中7人が死亡した「神戸国際フロンティアメディカルセンター」の医療事故も同様です。どんなに重症な患者さんだったとしても、手術をしなければその分だけ長く生きられた可能性が高い。そうした患者さんの基本的人権を医療が奪ってしまったわけです。病気で苦しんだまま生きることになるのではないか? といった議論はありますが、それはまた別の話です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。