糖尿病に絶対ならない 春の最新常識

<5>長寿になると話題の薬 心血管死を低下させ体重、脂肪肝も改善

(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病薬は患者にどんな利益をもたらすか、ご存じだろうか?

 むろん、血糖値が下がることは間違いない。しかし、それが「長寿」や「糖尿病が引き金で起きるとされる脳梗塞や心筋梗塞などの心血管病のリスクを下げられる」ことは証明されているのだろうか? 残念ながら「それはほとんど証明されていない」というのが医療関係者の常識だ。

 ところが、そんな常識を打ち破る薬としていま話題になっているのが、「SGLT2阻害薬」だ。SGLTは「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種で、グルコース(ブドウ糖)やナトリウムといった栄養分を細胞内に取り込む働きがある。SGLTは多くの種類があるが、SGLT2は近位尿細管と呼ばれる腎臓近くにのみ存在し、尿中に排泄されたグルコースを細胞に再吸収する。

 これをストップさせるのがSGLT2阻害薬で、血中のグルコース量を減少させる。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・西蒲田)の辛浩基院長が言う。

「SGLT2は尿中に排泄されるグルコースの9割を再吸収するといわれるため、それをストップする効果は非常に大きい。血糖値が改善するのはもちろん、体重も減少、脂肪肝も改善するという報告もあります。それに伴い血圧なども低下する。心臓や血管の病気を持つ2型糖尿病の患者さん7000人を対象にした大規模(42カ国が参加)な無作為化比較試験(EMPA―REG OUTCOME試験)でSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)を使った群とプラセボ(偽薬)群を比べたところ、心血管イベント、総死亡率ともに大幅に低下させることが明らかになっています」

 あくまでも心臓や血管に持病のある人に対する再発阻止効果が証明されただけ。そうでない人の心血管イベント予防につながるか、などは証明されていない。

「それはこれから証明されるべき問題です。なお、OUTCOME試験では使用半年ほどでプラセボとの有意差が出ていることから、飲んだ人が早く実感できるのも魅力です」

 実際、辛院長の患者でどんなに食事療法や運動療法で努力しても体重100キロを割れなかった50代の男性患者がSGLT2阻害薬を服薬することで90キロ台に突入。それを励みに生活習慣を変えて血糖値を大幅に改善した例があったという。

「ただし、尿糖が尿路を通るため、陰部の深刻な感染症に悩まされるケースも多い。また、やせ形の糖尿病患者さんが使用すると、筋肉量が減って動けなくなったり、血糖が下がり過ぎる問題も起きています。他の原因での死亡例も報告されています。取り扱いが難しい薬なので糖尿病専門医によく相談したうえで処方してもらうべきです」(辛院長)

 糖尿病治療はあなたが知らない間に進化している。医師任せだけでは治るものも治らない。