Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【望月三起也さんのケース】肺がん再発でも化学療法受けず

漫画家の望月三起也さん
漫画家の望月三起也さん(C)日刊ゲンダイ

 大のサッカーファンとして知られる漫画家の望月三起也さん(77)が肺がんであることを告白されました。50代以上の方なら、ドラマ化もされた「ワイルド7」は、ご存じでしょう。

 先週27日には、都内で開かれた自身の個展に登場。取材した記者によると、鼻には酸素を送るチューブをつけていて、かなりつらそうに見えたものの、自ら監督を務めているサッカーチームの関係者やファンの方々に囲まれて笑顔を見せていたそうです。

 皆さんにぜひ見習ってほしいのは、望月さんの前向きさ。「終活WEBソナエ」によれば、余命は「長くて1年、短くて半年」と宣告されながらも、作品の創作意欲はまったく衰えていません。そんな意欲が、がんと共に生きていく上で大切なのです。

■根治は手術か放射線

 新作は、ファンが熱望していた「俺の新選組」の続編。「春には、車いすでもいいから函館の五稜郭に行きたい。取材に行くとイメージが湧いてきます」と前向きで、その新作は「自分の『代表作』といえる作品に仕上げたい」と意欲を燃やしています。

 今回の報道によると、肺がんの発覚は2010年。手術と抗がん剤治療を受け、画像に見られた影が見えなくなったそうです。その後、経過観察を続けたのでしょう。昨年11月に再発。

 受診を告げられたときは、「今度こそ宣告だぞ」と奥さまと覚悟され、告知のショックを2日で乗り越え、「やっぱり仕事だ」と前を向いたようです。

 ちょうどそのとき、新作に向けた出版社との打ち合わせが進んでいたことも、がんに負けまいと奮起した大きな要因でしょう。奥さまのサポートもあったでしょう。だからこその新作への意欲と思われます。

 主治医には「自分が持っている酵素みたいなもので、がんの進行が抑えられることもある。先のことは考えるな」とアドバイスされたようで、今後は特別ながんの治療を受けず、がんと寄り添っていくことが読み取れます。

 今回、追加の抗がん剤治療を受けないであろうことは、創作を続ける上で大きいでしょう。というのも、肺がんはじめ胃がんや大腸がんなど固形がんを根治できるのは手術と放射線で、抗がん剤では根治できない上、望月さんのように高齢で、進行している方の場合、抗がん剤の治療効果より体へのダメージが大きいのが一般的です。

 あくまでも報道されていることからの推察ですが、創作活動を第一に考えるなら、治療は脳転移などに対する放射線治療くらいにとどめて、「めまいやふらつき」などの現在の症状を和らげるような緩和ケアを受けながら、がんと寄り添うことがベターと思えます。その方が、望月さんが重視する創作活動を最期まで行えるはずなのです。

「自分で『やりたいな』と思っていたことがすべて実現できている。だから、この作品も描き上げるまでは命が持つだろうって、変な自信を持っています」と語っていますから、新作の完成を待ち望むばかりです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。