脳卒中リスク2.5倍に 老いた親を“低栄養”から救う食事法

必要ないのに食制限をしている高齢者も…
必要ないのに食制限をしている高齢者も…(C)日刊ゲンダイ

 高齢者の健康目標として、新たに注目されているのが「低栄養の予防」だ。この研究の第一人者である東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二副所長に聞いた。

■高齢者の低栄養がもたらす弊害

 高齢者の栄養の現状が分かってきたのは、ここ数年のことだ。痩せの指標になる「BMI20以下」、低タンパク、栄養不良の指標になり死亡率が増える「アルブミン4・0g/dl以下」を低栄養とし、厚労省「国民健康・栄養調査」の結果から調べたところ、「65歳以上の2~3割」が低栄養と判明した。

 さらに、03年から09年にかけて「痩せ」の割合は変化がなかったが、「低タンパク、栄養不良」は2倍に増加していることも分かった。

「近年、成人のタンパク質摂取量は減少していますが、高齢者にも同様のことが言えるのです」

 高齢者の低栄養はどういう弊害をもたらすのか? 栄養状態を示すBMI、アルブミン、総コレステロール、ヘモグロビンと生存率の関係を、2つの地域の疫学調査で見た。すると、4つの指標を「高い」「やや高い」「やや低い」「低い」の4段階に分けたうち、いずれも「高い」人ほど生存率が高く、「低い」人は生存率が低かった。

「死因では脳卒中、心筋梗塞などの心血管病が多かった。中年期は栄養の過剰摂取が問題になるが、高齢者では低栄養が心血管病のリスクを高め、栄養状態がいい人に比べ実に2.5倍高かったのです」

 高齢者で、痩せの割合は変わらず(=体形は変わらず)、低栄養の人が増えている理由は、まず小食傾向。メタボに関する知識が広まったことで、「健康のために」と必要ないのに食制限をしている高齢者が珍しくない。さらに、運動量も少ない。

■偏りのない食事で栄養不足解消

 一般の高齢者では低栄養の状態は、余命、そして健康余命のどちらに対しても、独立したリスク要因になる。では、どう対策を講じればいいのか?

 まずは、とにかく「多様な食品」を取る。当たり前のことと思うかもしれないが、高齢者が健康で長生きするには特に重要だ。「ご飯、納豆、味噌汁、漬物」の献立より、「ご飯、納豆、卵、焼き魚、ひじきの煮物、おひたし、豚汁」の献立の方が、一品ごとの量を減らしても総カロリーは増える。

 また、前出の低栄養の指標であるBMI、アルブミン、総コレステロール、ヘモグロビンは、「エネルギー不足=小食傾向」「タンパク質不足」「脂質不足」「動物性タンパク質・鉄不足」を表す。品数が増えれば、この4つの不足を解消できる。

「多様な食品は、体重から体脂肪の重量を除いた『除脂肪量』を増やします。体重は同じでも、体力を維持する力が上昇するからです。高齢者は動物性タンパク質が不足しがちなので、肉、卵、魚介類、牛乳を意識して取るようにしてください」

 そうはいっても、「老親が食べたがらない」という人もいるだろう。新開副所長が高齢者を診察する際、食欲について聞くと、9割以上が「食欲はある」と答えるという。疾患などで食べられないのか、食欲があるけど食べないのか。

 前者なら治療が必要であり、もし老親が「食欲はあるけど食べたくない」というなら、子はその理由を突き止め、それに応じた対策を講じるしか手はない。状況によっては、高齢者向けにカロリーと栄養密度を高めた食品が市販されているので、それを利用するのも手だ。

「○○○さえすればOK」という、誰にでも通用する方法はないことを子どもは知っておかなくてはならない。

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