薬に頼らないこころの健康法Q&A

数学者への夢が断たれすさんだ生活を続ける息子が心配

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 しかし、こんな生活はいずれ飽きます。ご子息の知的な渇きは、堕落した生活によって潤されることはあり得ません。いずれは、彼本来の知的な生活に戻るでしょう。

 かつて、ゲーテは、「才能を授かり才能に生まれついた者は、この才能に生きることが最も美しい生き方だ」(「ヴィルヘルム・マイスター」)と述べました。精神科医の立場から言っても、知的な人はその本来の知性を十全に発揮することこそが、もっともメンタルヘルスにいいのです。

 ご子息自身が、数学少年、文学少年だった時代に、このような幸福を実感しながら日々を送っていたはずです。

 今は、かつて情熱を注いだ数学への夢は破れようとしているようですが、それに代わる何物かを彼なりに見つけると思います。

 ともあれ、学費を出しているのはご両親です。一度は、本人を実家に呼んで、「これからどうするつもりなのか」と尋ねてみても悪くないでしょう。ご子息なりに考えがあるかもしれません。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。