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古い卵子が若返る ミトコンドリア自家移植による不妊治療

自然に子どもをもてるに越したことはないが(写真はイメージ)
自然に子どもをもてるに越したことはないが(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

「卵子は老化する」――。 2012年2月に放送されたNHKの人気番組「クローズアップ現代」でこんな事実を知り、ショックを受けた人も多いことでしょう。多くの女性が「生理があるうちは子供を産める」と信じていただけに、それが幻想だと知らされたショックは大きかったはずです。

 卵子のもとになる細胞(卵子前駆体細胞)は、出生時にはすでに一生分が体内に用意されています。しかし出生後は減る一方で、閉経時にはほとんど残っていません。

 卵巣には新しい前駆体細胞を作り出す能力はありません。1個の前駆体細胞が成熟して1個の卵子が作られるため、卵子の年齢は女性本人の年齢と同じということになります。高齢化した卵子は、受精しても子宮に着床して細胞分裂する力が弱まっているため、妊娠・出産に至る確率が減ってしまいます。

 ところが、そんな古くなった卵子を若返らせる治療が実用化されつつあるのです。「ミトコンドリア自家移植」ないしは「オーグメント療法」と呼ばれるものです。

 まず、卵巣から前駆体細胞を取り出し、「ミトコンドリア」を採取します。そして体外受精のために別に採っておいた卵子に、精子と一緒に注入するのです。ミトコンドリアはブドウ糖などを燃やし、細胞の活動に必要なエネルギーや熱を供給するための、いわば発電機の役割を担っている微小器官です。卵子の中にも最初からミトコンドリアが入っていますが、さらに外から補充することによって、その活力をアップしようというアイデアです。

 卵子が本当に若返るかどうか、実のところよく分かっていません。しかし、世界中ですでに200例以上試みられ、それによって20人以上の子供が生まれています。昨年には、日本産科婦人科学会も、この治療法を臨床研究として承認すると発表しました。ただし健康保険は利かず、実施している専門病院は限られています。

 なお、出産には卵子の老化だけでなく、過度のダイエットも問題視されています。BMIが15を切ると月経不順が頻発し、10以下では卵巣機能が停止してしまいます。順調な妊娠のためには、BMI20以上が好ましいとされています。少しポッチャリ型の女性のほうが、子供ができやすいということです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。