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100万人分不足で献血が義務化? 高まる人工血液の需要

献血人口は減り続けている
献血人口は減り続けている(C)日刊ゲンダイ

 輸血用血液(赤血球)が不足気味です。ケガや手術だけでなく、近年はがん患者への輸血も増え続けています。化学療法を受けている患者の7割が貧血、1割が輸血を受けているという調査結果もあります。

 一方、少子化によって献血人口が減り続けています。日本赤十字社の予測によれば、団塊世代の全員が75歳以上になる2027年には、400ミリリットル献血換算で、延べ100万人分の血液が不足すると予想されています。20歳の献血が義務化される事態すら、否定できない状況です。

 酸素の運搬を担っているのは、赤血球中のヘモグロビンという鉄原子を含んだタンパク質です。いまでは人工的につくり出せるため、ヘモグロビンを注射器で打ち込めば済みそうですが、もちろん現実はそれほど単純ではありません。ヘモグロビン分子は、単独では血管内壁への毒性が強く、肺や腎臓に致命的なダメージを与えてしまうのです。

 それを解決するための3通りの方法が検討されています。

 1つは複数のヘモグロビン分子を化学的につなぎ合わせる方法。単純ですが、これで毒性が弱まります。すでにいくつかの国で製品化され、実際に使われています。しかし、心筋梗塞を引き起こすなど危険な副作用がいくつか見つかっているため、日本では承認されていません。

 2つ目が人工赤血球です。リポソームという油脂でできた微小な袋に、ヘモグロビンを包み込んでしまいます。そうすることで、ヘモグロビンの毒性を封じ込めることができるのです。袋の直径は、本物の赤血球の数十分の1ですが、動物実験から、本物と同等かそれ以上に効率よく酸素を運搬できることが確かめられています。ただし、人間による臨床試験はまだ始まっていません。

 3つ目は、赤血球をつくり出す細胞(造血幹細胞)を患者から採取し、フラスコのなかで培養して赤血球をつくり出す方法。再生医療の応用のひとつとして期待を集めています。基礎研究はほぼ終わっており、2017年からイギリスで臨床試験が始まる予定です。本物の赤血球ができるという点で、もっとも優れた方法と言えます。ただし、経済性と大量生産の点では、他の2つの方法のほうが有利かもしれません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。