ポリープ抑制効果も 「糖尿病薬」が大腸がん予防を変える

大腸がんはがんの罹患数第1位
大腸がんはがんの罹患数第1位(C)日刊ゲンダイ

 がんの罹患数第1位の大腸がんを今後、予防できるようになるかもしれない。横浜市立大学医学研究科消化器病学の中島淳教授らが研究結果をまとめ、英医学誌「ランセットオンコロジー」に発表した。研究チームの日暮琢磨助教に聞いた。

 現在、がんの予防として確立されているものは、胃がんのピロリ菌除去治療、子宮頚がんのワクチン投与、肝臓がんの肝炎ウイルスの除去などだ。

 しかし、予防できるがんは非常に限られている。そのため、がんについて力が注がれているのは、早期発見、早期治療、そして新たな治療法の確立だ。ところが最近、大腸がん予防につながる研究結果が発表された。

「糖尿病の治療薬『メトホルミン』が大腸ポリープの発生を抑制することが明らかになったのです」

 メトホルミンは第2次世界大戦前からある古い薬だ。ヨーロッパでは糖尿病治療の第1選択薬で、日本でも広く使用されている。このメトホルミンを用いている糖尿病患者は、大腸がん、膵がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がんなどが少ないという指摘はかなり前からあり、解明する研究も実施されている。その中で、日暮助教らは大腸がん予防の作用に着目した。

「最初のきっかけは、善玉ホルモンであるアディポネクチンを欠損させたマウスに大腸がんを発現させると、正常なマウスに比べて大腸がんが大量にできるという発見でした。アディポネクチンが大腸がんの予防因子になると考えたのです」

 アディポネクチンの作用として、AMPキナーゼというエネルギーセンサーを活性化させ、がんのほか、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を予防する効果がある。しかし、アディポネクチンを直接上昇させるのは難しい。糖尿病の治療薬であるメトホルミンがAMPキナーゼを活性化させることから、代わりにメトホルミンを投与してはどうか、と考えられた。

 そこで大腸がんのマウスにメトホルミンを混ぜた餌を与えると、大腸がんが減った。少人数の臨床試験では、メトホルミンを投与したグループは、大腸がんのマーカーが著しく低かった。そこで、今回の結果を得た臨床試験が行われた。

 対象者は、糖尿病ではなく、すでにポリープがあったが内視鏡の切除治療を受けた150人。2群に分け、一方は1日1回メトホルミンを、もう一方は偽薬を投与。1年後の検査では、偽薬の群は半数程度がポリープを再発、あるいは新規発生となったのに対し、メトホルミンは発生率が40%抑制された。

■1日1回の服用で副作用ほぼなし

 この研究の画期的な点は、まず「副作用がほぼなく、安価で、1日1回の服用という負担が軽い方法で、大腸がんにつながりかねないポリープの発生を抑えられた」ことだ。大腸ポリープが一度できると、多くが何度も繰り返す。対策は、定期的な内視鏡の検査と切除しかなかったが、メトホルミンなら実に手軽だ。

 次に、「糖尿病でない人を対象に抑制効果を得られた」点。

「糖尿病は大腸がんのリスク因子。糖尿病患者を対象にすると、ポリープ抑制がメトホルミンの効果か、糖尿病改善による効果か、はっきりしません。非糖尿病患者を対象としたことでメトホルミンの直接的な作用を実証することができました」

 今後は臨床研究の参加者の人数を増やし、研究年数も長くする予定だ。

■世界初の画期的な方法

 これまでアスピリンやNSAIDsと呼ばれる痛み止めの投与が大腸がんのリスクを下げることが報告されている。しかし副作用も認められているため、大腸がんの予防法として確立したものではない。今回の発表は、画期的な研究結果として専門家の注目を集めている。

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