役に立つオモシロ医学論文

手術後の腸閉塞予防にガムが有効

(C)日刊ゲンダイ

 開腹手術を受けた後、一時的に腸の運動が低下し、腸管の内部が詰まってしまう腸閉塞を起こすことがあります。「術後イレウス」とも呼ばれるこの症状は、胃や大腸の手術後に発症しやすいといわれています。術後の腸閉塞は、その症状だけでなく、入院期間を延ばしたりするなど、患者さんにも負担を強いる重大な合併症です。

 2015年2月、英国の外科専門誌に興味深い論文が掲載されました。なんと「手術前と術後にガムを噛んでいると、術後腸閉塞を発症しにくくなる」というものです。

 この研究は、18歳以上で、大腸の開腹手術を受けた120人(平均67歳)が対象となっています。被験者は「ガムを噛むグループ」(58人)と、「ガムを噛まず、プラセボの皮膚パッチを腰に貼付するグループ」(62人)に割り付けられました。ガムを噛むグループは手術3時間前から、1時間当たり少なくとも3個以上ガムを噛み、また術後3時間以降もできるだけ早くガムの咀嚼を再開し、それを食事摂取の再開まで続けました。

 その結果、腸閉塞の発症は、ガムを噛んでいないグループの48%に比べて、ガムを噛んでいたグループでは27%と、統計的にも有意に減少しました。入院期間(中央値)に関しても、ガムを噛んでいないグループの14日に比べて、ガムを噛んでいたグループでは9・5日と、統計的にも短いことが示されました。

 もちろん、患者さんが医師の許可なしに、手術前後にガムを噛むという行為は現実的には難しいでしょう。ただ、医学的にはその有用性が示されており、副作用リスクもほとんどないことから、腸閉塞の予防策として考慮したいところです。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。