医者も知らない医学の新常識

ウイルスを媒介するコウモリ なぜ伝染病にかからない?

 動物には人間にはない能力があり、人間とは病気のかかり方も違います。たとえば、長命な動物で有名なゾウは、ほとんどがんになることがないのですが、その理由が最近、遺伝子を分析することによって明らかになりました。

 実はゾウは「がん抑制遺伝子」というがんを予防する遺伝子を、人間の20倍近くも多く持っているのです。コウモリは、エボラ出血熱などの重症の感染症を人間にうつす動物として知られています。それでいて、エボラウイルスを体に持っているコウモリは、熱を出したり死んだりはしません。ウイルスが体にいても、平気で元気に空を飛んでいるのです。これは一体なぜでしょうか?

 今年の「PNAS」という医学誌に、それについての興味深い研究結果が報告されています。コウモリの遺伝子を解析したところ、ウイルスから体を守る働きを持つ「1型インターフェロン」という物質が、人間では体にウイルスが侵入した時に、それも一部の組織に限ってしか作られていないのに対し、コウモリは全身の組織で常にこの物質が作られているのです。これが、エボラウイルスが体にいても、コウモリが平気な理由です。

 コウモリ男というと、昔の特撮ドラマのようですが、コウモリの特徴を活用して病気を予防するような医療が、将来は開発されるかもしれません。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。