病院は本日も大騒ぎ

全身血まみれの患者に携帯電話を許したベテラン救急科医師

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 こんにちは! 関東圏の総合病院に勤務しているキャリア40年の看護師のヨシエです。

 私は現在、オペナースとして手術室で「直接介助」(「間接介助」は患者の搬送や、手術室内でガーゼの処理、または記録などを取る看護師)をしていますが、それ以前は救急も担当していたので、ベテランの救急科の医師の凄みがよくわかります。

 そうしたベテラン救急科医の中でも、「この医師は凄い」と鮮烈に記憶している人がいます。いつもはひょうひょうとしていて、スタッフを笑わせてばかりいる40代の医師です。

 ある日、交通事故に遭った患者さんが、病院の玄関前に救急車で緊急搬送されたときにその凄みを見ました。その患者さんは30代のサラリーマン風の方でした。事前の電話連絡によると、体全体が複雑骨折を起こしているようで、運ばれてきた姿は全身血だらけ。若い看護師はもちろん、経験の浅い医師なら見ただけで卒倒するような姿でした。

 応急手当ては一刻を争います。そのベテラン救急科専門医と3人ほどの看護師がつき、患者さんをすぐにストレッチャーに乗せました。すると、大ケガを負っている患者さんが、ポケットに手を入れてモゾモゾと体を動かしているのです。

「何をしているのだろう」と思い見ていると、患者さんが弱々しい声で、「先生、自宅に携帯電話で知らせたいのですがいいですか?」と、聞いていたのです。

 私は「今の状況を考えろ!」と、救急科医が患者さんを怒鳴りつけるのだろうと思いました。ところがその医師は、「ああ、いいよ。電話しなさい」と言いながら、平然とストレッチャーを押しているのです。

 全身血まみれの患者さんは、電話に出た奥さまに「ごめん、お酒飲んだ後に事故に遭っちゃって。ホントごめん、あの時君に言われた通り、帰ればよかったんだけど……。悪いけどいま病院なんだ。あとで来てくれる?」と話をしていました。その横で救急科医はテキパキと指示を出し、はさみで患者さんの衣服を切るなどして、治療を始めていました。

 普段は「奥さまと子供に虐げられてツライ」とこぼす頼りなさげなこの医師を少し小バカにしていましたが、「ああ、これがベテランというのだな」と感心しました。