今年の医学界で最大の発見になるのではと注目されているのが、盲目の治療。大きな鍵になっているのが幹細胞です。
イギリスでは世界で初めて、ヒトの胚細胞から取った幹細胞を加齢黄斑(おうはん)変性症の患者の目に移植する臨床実験が行われました。結果はまだ発表されていませんが、成功すれば歴史的な一歩になると考えられます。
ところが、その結果を待っていた医学界に驚きを与えたのは、フロリダの医師による「盲目の治療に成功」の報告でした。
ヴァナ・ベルトンさん(29)は7年前に突然、視界がぼやけ始め、視力をほとんど失いました。原因は不明。治療法を探していた時に出会ったのが、ジェフリー・N・ワイス医師です。
ボルティモア・サン紙によればワイス医師は、ハーバード大学で教壇に立った経験はあるものの、現在はどこの大学や政府機関にも属さず、独自で幹細胞研究を行ってきました。その治療法は、患者の腰骨の骨髄から抽出した幹細胞を、網膜またはその周囲、あるいは視神経に注入するものです。治療費は約2万ドル。患者のベルトンさんは、この治療で店の看板が読めるまで視力が回復したといいます。
ワイス医師は実験結果を医学誌に発表。同じ方法で278人の黄斑変性症、緑内障などの患者を治療し、6割がある程度、視力を回復したとも報告しています。
しかし、医学界では批判の声が上がっています。事前に動物実験を行っていないこと、患者に治癒を約束していないこと、視力が戻った科学的な解明がなされていないことが理由です。
一方で、6割もの患者に効果があったことに希望を見いだす関係者も少なくありません。ワイス医師自身は「多くの患者を救ったペニシリンも、最初はその効用が分からなかった。一人でも多くの患者を救うことが重要」とコメントしています。
▽シェリーめぐみ ジャーナリスト、テレビ・ラジオディレクター。横浜育ち。早稲田大学政経学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。
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