当事者たちが明かす「医療のウラ側」

米ではヘディング禁止「子どもの脳震とう」の深刻リスク

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
都内の40代勤務医

 米国のサッカー協会が脳震とう予防の観点から「10歳以下のヘディング禁止令を出した」とのニュースを覚えている人もおられると思います。私の友人たちはそれを聞いて「なんだ、大げさだな」「米国は過保護だ」なんてあきれていましたが、軽く考えるのは禁物です。実は、脳震とうの直後の影響と時間が経ってからの影響に注目した複数の研究から、子供は大人以上に強いダメージを受けることが分かっているからです。

■脳は想像以上に傷つきやすい

 たとえば、脳震とうを起こした高校生が後に不眠症や集中力が途切れるようになり、「学習障害」「注意欠陥障害」と診断されるケースがいくつも報告されているのです。

 脳は脳脊髄液という保護液に浮かぶ傷つきやすい器官です。ちょっとした衝撃なら脳脊髄液がクッションとなってダメージを受けない仕組みになっています。

 ところが、頭部が激しく揺さぶられたり、強い衝撃を受けたりすると、脳は頭蓋骨の内壁にぶつかり、脳を構成する神経細胞(ニューロン)が傷つきます。むろん、「神経信号を伝えるニューロンの通信ケーブルである軸索の束」(白質)も引きちぎられます。

 当然、脳に炎症が起き、脳圧が上がり、カルシウムイオンやカリウムイオンが増えます。こうした化学物質は後々、脳細胞を傷つけたり、破壊するなどの悪さをします。それを防ぐために、人の体はカルシウムイオンやカリウムイオンを排出しようとするのですが、それにはエネルギー源としてブドウ糖が必要となります。ところが、脳内にカルシウムイオンやカリウムイオンがあふれているために血管が収縮し、必要な箇所にブドウ糖が届けられなくなるのです。さらに脳がダメージを受けると、記憶を支えるために必要なNMDA型グルタミン酸受容体が減少することも分かっています。脳震とうが起きてから数週間から数カ月後にその悪影響が出るのはそのためです。

 これは、脳震とうを自覚している人にのみ起きているわけではありません。実は、脳震とうを起こしていない人もまた、同じような脳の損傷を受けている可能性があるのです。

 実際、脳震とうの自覚がないアメフト選手の脳を調べた研究者は、脳震とうを自覚した選手と同じだけの脳のダメージを発見しています。

 ましてや、脳が完成途中にある10代の若者は大人よりも脳が傷つきやすいのは当然です。

 親や指導者は体と体がぶつかり合う激しいスポーツには、こうしたリスクがあることを十分把握しておかねばなりません。