鳴り物入りでスタートした「かかりつけ薬剤師」だが、一部で「国庫への新たなダメージになるだけ」とささやかれている。
そもそもかかりつけ薬剤師は「かかりつけ薬局」と同じで、患者の薬歴管理、体質体調に応じた適切な調剤を行ってくれる薬剤師のこと。3年以上の薬局経験があり、同一店舗に6カ月以上在籍。各種研修機構の認定を受けていて、患者の署名付き同意書がなければ、指名されない。
その役割は患者の併用薬や嗜好品、健康食品の摂取の有無を含め服薬状況の把握と管理。24時間電話対応できる態勢も必要だ。
そのぶん、患者の経済的負担も増える。「かかりつけ薬剤師指導料」は70点(=700円)。患者はその一部を負担する。例えば3割負担の患者なら服薬指導を受けるたびに210円を支払う。むろん、「かかりつけ薬剤師」には従来の「薬剤服用歴管理指導料」は支払われないため、患者の実質負担増は20円から100円となる。
問題は、自己負担額を増やしてまで患者は「かかりつけ薬剤師」を必要としているのかということ。
「いまのままでも薬剤師は大抵のことは答えてくれるし、薬の管理・指導もしてくれる。5円のスーパーのレジ袋を節約する時代にカネのかかる『かかりつけ薬剤師』を必要とするとは思えません」(東海の調剤薬局勤務の薬剤師)
ところが、一部の調剤薬局は「ビジネス拡大のチャンス」とみて、「乳幼児」「心身障害者」「生活保護者」の患者に攻勢をかけているという。
「いずれも医療費負担がゼロで、かかりつけ薬剤師指導料の負担増を感じない患者さんです。実際、こうした患者に積極的に同意書をとりつけろ、と指示する調剤薬局は少なくありません」(同)
今回の「かかりつけ薬剤師」設置の目的のひとつに、年約380億円ともいわれる薬の飲み残しの解消があるといわれる。
「しかし、かかりつけ薬剤師がいたら、完全に解消できるわけではありません。かえって国の負担が増えるだけ、と心配しています。例えば生活保護者の医療費は無料です。その財源は国が75%、自治体が25%賄っていますが、自治体は国から地方交付税を受け取っていることから、事実上国の支出。つまり、生活保護者のかかりつけ薬剤師指名が増えるほど国の負担は増えるのです」(同)
2015年7月時点の全国の生活保護受給者数は216万人。そのすべてが「かかりつけ薬剤師」の服薬指導を受ければ、1回15億円超。全員が毎月薬を受け取るとすると年間180億円の指導料が必要となる計算だ。
そもそも国が本気でこの制度を定着させるつもりなら、お薬手帳のように患者負担を減らす施策を取ったはず。最初から普及させる気などないのではないか。
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