Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【川島章良さんのケース】腎臓がん 8割は完治する可能性あり

川島章良さん(左)
川島章良さん(左)/(C)日刊ゲンダイ

 テレビや雑誌は、お笑いコンビ「はんにゃ」の川島章良さん(34)の腎臓がん告白を衝撃的に伝えています。「え? オレが? (当時)32歳なのに、まだ早くない?」と動揺した姿に、心を揺さぶられた人がかなりいたということでしょう。確かに腎臓がんは最近、20~30代での発症が増えているのです。

 なぜかというと、検査の普及が一番大きい。がん検診の受診率は2~3割と低いものの、企業の健康診断や人間ドック、ほかの病気の検査などでたまたま見つかるケース(偶発がん)が少なくないのです。

 腎臓がんは、見つかり方によって偶発がん、尿路症状がん、尿路以外の症状のがんに分けられます。CTやエコー検査が普及途上の80年代前半、偶発がんは5%程度でしたが、今や80%に上昇。そこに若い方が含まれているのです。

■治療は手術が第一

 偶発がんは腎臓が検査の目的でないのに見つかるほどで、ほとんどが早期。川島さんも「(妻の妊娠をキッカケに)健康診断を受けたら、腎臓がんが見つかった」と語っていますから、恐らく偶発がんで早期と思われます。幸い、腎臓がんは早期で手術を受ければ、まず治ります。

 10万人あたりの死亡数は男女合計で約14人。肺がん(約117人)や胃がん(約78人)などより明らかに少なく、早期発見、早期治療によって完治できる可能性が高いことを示しています。川島さんも術後、昨年1月に仕事に復帰し、その後は再発していないようですから、“家族力の勝利”といっていいでしょう。

 尿路症状は、血尿や腹痛などで、腎臓の腫瘍がある程度大きくなった状態で、尿路外症状は転移に伴う全身症状です。咳や骨の痛み、まひ、意識障害、便秘、下痢、嘔吐、頭痛など。

 転移があると、化学療法などを勧められることがありますが、腎臓がんは化学療法も放射線も効きにくい。手術できる状態で見つけられるかが、その後の人生を大きく左右します。手術が治療の第一です。

 肥満はそうでない人に比べて腎臓がんの発症率を4倍に上昇。高血圧は2倍です。メタボ化の世の中で、肥満や高血圧が低年齢化しつつ急増していることも、若い腎臓がん患者を増やす要因でしょう。

 あくまで推測ですが、腎臓がんを発症したのは、遺伝の影響があるかもしれません。

 ヒトは両親から一つずつの遺伝子を受け継ぎ、いろいろな役割を担っています。がん発症との兼ね合いで重要なのは、発症を抑えようとする「がん抑制遺伝子」です。生まれつきどちらかの遺伝子が突然変異していて、生活の途中でもう片方にキズがつくと、がんを抑える働きがストップ。がんにかかりやすくなるのです。

 遺伝的な要因があると、腎臓や中枢神経に腫瘍が多発する傾向があり、こうした方の4割近くが腎臓がんを発症するとされています。一般的な腎臓がんの発症は55歳以上なのに対し、このタイプの腎臓がん発症年齢は平均38歳と若く、2つの腎臓の両方にできやすいのが特徴。10代で発症するケースもあります。

 遺伝子異常は検査で分かりますから、若くしてがんになった人が近縁者にいる家系の方は、若いうちからがん検診を受けることが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。