健康は住まいがつくる

大地震後に激増 高齢者はネズミによる健康被害に気をつけろ

東日本大震災でも激増
東日本大震災でも激増(C)日刊ゲンダイ

 大地震後の被災地で怖いのは、余震による建物の倒壊だけではない。普段は地下などに潜んでいる害虫などが表に出てきて、悪さをする。

 そのひとつがネズミだ。5年前の東日本大震災のときには、避難住民が残した食品や家畜の死骸などをエサに大発生。家の柱や布団をかじったり、畑の作物を荒らし回るなどの被害が報告されている。

 どんな家屋が狙われやすいのか? 30年以上にわたり街のネズミ駆除を研究しているイカリ消毒・技術研究所の谷川力所長(獣医学博士)が言う。

「高断熱住宅やマンションなどの新しい家は、ネズミの侵入経路が少ないのでまだいいのですが、ネズミがすみつきやすいのは築40、50年くらいの古い一戸建て住宅です。そのような家は高齢者世帯が多く、ネズミの侵入が放置されたままになっているケースが少なくありません」

 もともと高齢者世帯では、ネズミ取りなど自力でネズミの駆除をしていないことが多い。経済的理由から駆除業者への依頼もためらう傾向があり、駆除を諦めてしまう人が少なくないからだ。

 ネズミがもたらす健康被害は、さまざまな感染症が知られている。仕掛けたワナで捕まえたネズミを始末しようとして噛まれると、鼠咬症を発症する恐れがある。ネズミが持つ病原菌が傷口から入り込み、急な発熱、頭痛、関節痛などの症状が表れる病気だ。

 直接、ネズミに触れなくても、尿にも病原菌が含まれているので注意が必要だという。

「レプトスピラ症は、ネズミの尿に汚染された水に触れただけでも皮膚から感染します。症状は高熱や黄疸、筋肉痛など。腎障害などを伴う重症型(ワイル病)を引き起こすこともあります」

■寿命を縮める

 ネズミに寄生するイエダニも問題になる。ネズミから離れて移動し、人を吸血することで激しいかゆみと皮疹を引き起こす。

「ネズミによる健康被害は感染症や皮膚炎だけではありません。ネズミが家にすみついていることへの精神的苦痛やストレス、深夜の物音などで睡眠障害を引き起こします。特に高齢者は眠れなくなって睡眠リズムが崩れると持病の薬を飲むリズムも崩れてしまいます。いま介護福祉関係者や保健所が心配しているのは、『ネズミが高齢者の寿命を縮めてしまうのではないか』という懸念です」

 ネズミには季節による繁殖期はなく、1カ月に1回、5匹前後の子ネズミを産む。そして、2カ月で親ネズミに成長するという。1カ所で生息する匹数は、その場で食べられるエサの量によって変わり、分散する。ネズミの駆除を放置していると、どんどん生息エリアを広げてしまうのだ。

「ネズミ被害への対策は被災地ばかりではなく、万一に備えて日頃から全国民が考えておかなければならない問題です。それには、近隣地域で共通した駆除意識を持たなければなりません。老老介護の諸問題に、ネズミ対策も含まれていることを忘れてはなりません」