被災地に親族・知人がおられる方は、さっそく現地に電話をかけたことでしょう。安否確認、お見舞い、避難所情報。そうしたやりとりをしていると、不思議なほどに元気な人がいたことにお気づきかもしれません。
「あんな被害に遭ったのに、大したものだ」と驚かれた人もおられるのではないでしょうか。自宅が倒壊した。家の中が泥だらけになっている。会社から帰れなくなった。避難所暮らしを強いられている。大変そうだ。それで、電話をかけてみたら、電話口から予想外に元気な声が聞こえてきた。安心しつつも、少々、拍子抜けしたかもしれません。
しかし、この「予想外の元気よさ」は要注意です。震災直後から、被災者のなかに「全然疲れを感じない」人がいます。十分な睡眠もとっていないのに、一日中がれきの撤去、住居の片づけ、汚泥の除去、落下物の処理や、親族との連絡に走り回っているのに、疲れない人がいます。
■試合中のボクサーは痛みを感じない
この人たちは超人なのでしょうか。そうではありません。実はこの人たちは疲れを知らないのではなく、疲れを感じるセンサーが機能停止しているのです。これは、ボクサーが試合中に痛みを強く感じないのと同じです。
個体存続の危機に瀕したとき、体は一時的に過活動状態となり、実際には疲労が蓄積し、許容量を超えつつあっても、アラームを発しないように、一時的に疲労感知センサーのスイッチが切られているのです。
しかし、不眠不休の奮闘努力は、きょうまでにすべきです。最初の大きな揺れから既に4日経っています。体は確実に消耗しています。たとえ、倦怠感も、眠気も、節々の痛みも、自覚としてはまったく感じなくても、それにもかかわらず、ここで長い休息を入れなければなりません。さもないと、体は必ずこわれます。
■睡眠と休息は不可欠
あなたが被災した身内や知人にお電話される際、必ず聞いていただきたいことがあります。それは「ちゃんと眠れていますか?」ということです。
もし「眠っていない。眠らなくても大丈夫だ」、そのような言葉が返ってきたら要注意です。どうか、愛情を込めて、こう伝えてください。「眠らないとダウンする。無理してでも夜は休まなければいけない。明日でもできることは、明日に回しましょう」と。
睡眠は災害時には普段以上に取らなくてはなりません。睡眠は、脳や体の疲れを取るだけでなく、ストレスに対する抵抗力を向上させ、免疫力を高めます。過活動によりオーバーペースになっている心臓を休ませ、記憶の内容を整理し、判断力を回復することもできるのです。
逆にいえば、睡眠不足はストレスに対する抵抗力を損ない、病気にかかりやすくします。脳のスタミナを損ない、思考力も落ちて、結果として判断ミスを連発してしまう恐れもあります。
震災からの復興は、マラソンです。無呼吸で一気に走りきる100メートル競走ではありせん。息の長い活動が必要です。今はまだ、ほんの始まりです。明日のために、夜は早く休むこと。明るくなったらまた活動を再開しましょう。
薬に頼らないこころの健康法Q&A