医者も知らない医学の新常識

耐性菌問題は? 抗生物質を使用するのは人間だけではない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 先日、国が「2020年までに抗生物質の使用量を今の7割程度まで減らす」という目標を掲げたことがニュースになりました。

 抗生物質というのは細菌を殺したり弱らせたりする薬ですが、不必要な場合に使用し続けると、「耐性菌」といわれる抗生物質が効かない細菌が増えるという弊害があることが知られています。中でも「多剤耐性菌」といって、普段使われる複数の抗生物質が効かなくなると、“本当に治さなければ命に関わる感染症を治療する武器がない”という深刻な事態になるのです。

 ただ、ここでひとつ皆さんがあまり知らない事実があります。それは、世界で最もたくさん抗生物質を使用しているのは、「人間ではない」ということです。米国の統計では、年間の抗生物質の使用量のなんと80%近くは、人間ではなく家畜に使用されています。日本ではあまり正確な統計はありませんが、人間の2倍以上が動物に使用されていることは間違いありません。

 なぜ、家畜に抗生物質が使用されるのかというと、感染症の予防や成長促進目的だといわれています。当然、人間のような厳しい使用基準は家畜にはありません。

 医者が人間に使用する抗生物質の乱用を控えることは、耐性菌の出現を予防するために重要なことです。しかし、人間以外への抗生物質の使用が今のままでは、耐性菌問題の解決にはならないのではないでしょうか?

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。