新抗がん剤が契機 進行・再発胃がんの治療戦略に変化あり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃がんは、日本人のがんの中で罹患率トップだ。患者数は増加傾向にあり、特に男性は女性に比べより増加している。昨年末に公開された胃がん治療ガイドライン速報では、胃がん化学療法のパートで「推奨される治療」に変化があった。がん研究会有明病院消化器化学療法科・山口研成部長に聞いた。

 胃がんは、内視鏡治療、外科手術、化学療法(抗がん剤)が治療の3本柱だ。がん治療はⅠ~Ⅳ期の病期によって治療法が異なる。胃がんでは、ごく早期が内視鏡治療、その適応がない場合は外科手術、それらの適応がないⅣ期は基本的に抗がん剤になる。内視鏡治療と外科手術はがんの根治を目指すのに対し、抗がん剤は「延命」あるいは「再発予防」が主たる目的だ。

 近年、抗がん剤は、新しいカテゴリーの薬剤が登場した。従来の抗がん剤が「殺細胞性抗がん剤」のカテゴリーに入るのに対し、がん増殖に特異的に働く分子を狙い撃ちする「分子標的薬」がそれに当たる。新たな分子標的薬が承認されたことにより、今回のガイドラインから抗がん剤治療の戦略が変わったのだ。

 進行・再発がんへ抗がん剤治療を行う時、事前に「HER2(ハーツー)検査」を行う。HER2は、細胞の増殖・分化に関わるタンパク質。これが、がん細胞に過剰に発現しているタイプかどうかを調べる。

「これまでは、HER2が過剰に発現しているHER2陽性と、そうでないHER2陰性では、治療が異なりました」

 HER2陽性は、1次治療で分子標的薬「トラスツズマブ」と従来の抗がん剤を使う。HER2陰性は、従来の抗がん剤だけでいく。

 そして1次治療がうまくいかなければ、2次治療としてHER2陽性、陰性ともに、従来の抗がん剤が単独で投与される。具体的には、ドセタキセル、イリノテカン、パクリタキセルという抗がん剤のどれかだ。

「しかし今回のガイドラインでは、2次治療として推奨されていた『抗がん剤単独』ではなく、『抗がん剤+分子標的薬』がまず推奨されることになりました」

■ファーストチョイス薬で効果なしの患者もがんが半分に

 2015年6月、分子標的薬「ラムシルマブ」が、前出の「トラスツズマブ」に続いて承認されたことがきっかけだった。胃がんでは初めての「血管新生阻害剤」で、血管新生で重要な働きをする血管内皮細胞増殖因子が受容体と結合するのを阻害し、がん細胞に栄養を行き届かなくし、がん増殖を抑制する。

 この新たな分子標的薬を、1次治療がうまくいかなかった進行・再発胃がんの患者に、①「抗がん剤と併用」②「ラムシルマブ単独」の2通りの方法で投与したところ、プラセボ(偽薬)の結果と比較して、どちらも全生存期間が有意に延長したのだ。

「ラムシルマブが登場するまでは、2次治療では抗がん剤単独の治療が推奨されていたのですが、ラムシルマブを用いた比較試験によって、まずラムシルマブと抗がん剤の併用療法が推奨されることになったのです」

 これまでの「抗がん剤を単独で用いる治療法」は選択可能な治療法(推奨度2)となり、ラムシルマブ単独も推奨度2に加わった。

 副作用の問題から慎重に使うことが求められるものの、がん研有明病院の患者には、併用療法でがんが半分近くに縮小した患者が3割近くいるという。

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