世界が注視する最新医療

世界中の薬品メーカーが参入する次世代薬 核酸医薬の効能

(C)日刊ゲンダイ

 細胞内の核酸の一種である「メッセンジャーRNA(mRNA)」に結合することによって特定の遺伝子の働きを阻害するのが、「核酸医薬」と呼ばれる新しいタイプの薬です。

 細胞には細胞核があり、その中に染色体が収納されています。染色体にはDNAが入っていて、人間の設計図である遺伝子(遺伝情報)が書き込まれています。ただし、遺伝子はそのまま機能するわけではありません。いったんmRNAに情報が写し取られ、これをもとにして細胞内の別の場所でタンパク質などが合成されるのです。ところが遺伝情報が間違っていると、異常なタンパク質が作られるようになるため、病気の原因になることがあります。

 核酸医薬は狙ったRNAと結合して、異常なタンパク質が作られないようにします。DNA上の遺伝子そのものには作用しないため、根本的な治療にはなりません。

 しかし、比較的安く簡単に作れるメリットがあります。しかも、注射などで患者に投与できます。前々回、前回でお話ししたゲノム編集技術を使えば狙った遺伝子の除去も可能ですが、いまのところ培養細胞レベルでしか成功していません。

 現時点では核酸医薬のほうが現実的であるため、世界中の大手薬品メーカーがこぞってこの分野への参入を始めているところです。

 AIDS患者に多いサイトメガロウイルス網膜炎の治療薬であるホミビルセンや、家族性高コレステロール血症の治療薬であるミポメルセンが米国で承認され、臨床で使われています。

 日本では、滲出型の加齢黄斑変性症を治療するペガプタニブが承認されています。ただし、こちらはmRNAと結合するのではなく、血管内皮増殖因子と呼ばれるタンパク質を攻撃します。タンパク質と結合する核酸医薬は、アプタマー医薬とも呼ばれています。

 また国立がん研究センターが昨年から、乳がん治療用の核酸医薬の臨床試験をスタートさせました。がん細胞の細胞膜にはRPN2と呼ばれるタンパク質があって、抗がん剤から防御する働きを担っています。そこで、核酸医薬でRPN2の生産を阻害し、がん細胞の抗がん剤への抵抗性を弱めてしまおうという作戦です。成功すれば、乳がん治療に新たな武器が加わることになります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。