医療数字のカラクリ

治験データ解析不足で副作用 日本の臨床試験での“大事件”

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで、イギリスとフランスにおける臨床試験にまつわる事故を紹介しましたが、今回は日本での事件です。

 1993年、帯状疱疹の治療薬「ソリブジン」を服用した患者が、発売後1カ月で15人死亡したという大事件が起こりました。

 ソリブジンと併用された抗がん剤との相互作用のために、抗がん剤の濃度が上昇。抗がん剤の副作用が強く出現し、死亡に至ったことが今では判明しています。

 この併用による危険な副作用の出現は、治験の段階では残念ながら把握されませんでした。しかし、その発見の糸口は少数の患者を対象に行われたソリブジンの第2相臨床試験の論文に示されていたことが分かります。

 この試験では77人の帯状疱疹患者にソリブジンが投与され、その10日後に1人の死亡が報告されています。これを受け、論文内には「抗がん剤(UFT)、抗エストロゲン剤が投与されていたことなどより、ウイルス感染あるいは抗がん剤等の併用薬剤による影響、乳がんの転移、再燃など種々の原因が考えられたが……」と書かれています。

 しかし、その後には「直接の原因は不明であった」とし、論文の結論として「高い安全性が確認された」とあります。

 さらに、事件が起きた後の調査で、2人の死亡が確認されました。動物実験でソリブジンと抗がん剤の相互作用による実験動物の死亡を示すデータが明らかになるなど、情報が公開されたのです。

 もし、この情報が十分吟味されていれば、副作用は防ぐことができたものだったことが明らかになります。

「メーカーはデータを隠蔽しているかもしれず、治験の死亡例はまず副作用を疑え」─―。肝に銘じたいものです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。