がん患者こそポジティブに 知っておきたい「3つの事実」

落ち込んでばかりは良くない
落ち込んでばかりは良くない(C)日刊ゲンダイ

 2人に1人がかかるがんは、いまや日本人にとってありふれた病気だ。ところが、「がんは過酷な闘病生活を伴う不治の病」とのイメージが強く、いまだにその告知は恐怖の的。がんと分かると、人は落ち込み、世をはかなみ、自分の殻に閉じこもってしまう。これでは何のために生きているのか分からない。元気で前向きで、価値ある人生を送るがん患者になるにはどうしたらいいのか? 長年、がん患者のこころのケアを続けている「聖路加国際病院」精神腫瘍科部長の保坂隆医師に聞いた。

■がん治療にはこころのケアが不可欠

「がん患者ががんに負けないこころをつくりたければ、まず3つの事実を知ることです。1つめはがんによるショックでうつ病を発症すると免疫力が低下し、がんを悪化させるということ。逆にいえば、がんを治療するには身体的治療と共に、こころのケアが不可欠なのです」

 実際、がんを告知された人の3~4割は「適応障害」(がん告知など強いストレスを受けて3カ月以内に日常生活に支障が出るような精神状態)となり、その後、うつ病を発症する場合もある。

「もちろん、がんと告知された当初は誰もが不安になり、落ち込みます。がんであることが受け入れがたく、がんを否認する日々が続くのです。しかし、多くの患者さんは時間の経過とともにそれを受け入れ、治療に向かう元気が出てきます。それでも、がん患者の2割の方がうつになる。中には『もう死んでしまいたい』と思い込む『希死念慮』に取りつかれる方も、がん患者全体の2%います。しかし、こうしたうつでも、適正な治療で軽減できるのです」

 2つめは、がんは特別な病気でなく、ありふれた「慢性疾患」に過ぎないということ。

「がんは基本的に治らない病気です。しかし、がんと同じで『完治しない病気(慢性疾患)』はいくらでもあります。高血圧症、糖尿病、高脂血症、関節リウマチ……。これらの患者さんは皆、定期的に病院に通い、必要があれば治療を受ける。がんも同じです。定期的に検査を受け、症状が悪化すれば治療する。がんを特別視する必要はありません」

 そもそも、「がんは死ぬ」というのが間違いだ。厚労省の統計によると、がん自体で亡くなるのは死因全体の3割に過ぎない。がんになっても半分程度はがん自体では死なないのだ。がんの痛みも、「モルヒネなどの薬剤等で99%はコントロールできる」時代だ。

■脳がつくり出すネガティブな感情に溺れない

 3つめは、「がんで死ぬ」という考えが頭から離れず堂々めぐりしてしまう人にも治療法がある、ということ。

「脳は過去を振り返れば後悔、将来を考えれば不安を感じる根暗な器官です。悲しいとか怖いというネガティブな感情をつくり出すのが仕事です。これを抑えようとするのはムダなので、不安や恐れを感じたら、『ああ、脳が働いているのね』と突き放して考える。大切なのは、脳がつくり出すネガティブな感情を打ち消そうとするのではなく、溺れないことなのです」

 そのためには、一度にひとつのことしか集中できない脳の性格を利用するのも手だ。例えばタイル磨きや編み物、掃除などに熱中すれば、不安な気持ちは払拭される。ほかにも、「腹式呼吸」「漸進性筋弛緩法」「自律訓練法」などのリラクセーション法がある。どの方法を取るかはその人による。

 最近では、「マインドフルネス瞑想」も効果が確認されている。ネガティブ思考が浮かんでも、それを「ただ眺めているだけ」という対処法だ。

「大事なことは、身体的ながん治療開始と同時に精神腫瘍科医などにかかり、不安や恐怖の正体を知ることです。そうすれば、取るに足らない恐怖がそぎ落とされ、本気で取り組むべき問題が明らかになる。それこそが、がんに負けないこころを持つ、前向きながん患者になる方法なのです」

関連記事