どうなる! 日本の医療

国保の都道府県移管は大量の無保険者を作り出す

(提供写真)

 赤字が続く国民健康保険の運営主体が、現在の「市町村」から「都道府県」に移行するのをご存じだろうか? 厚労省は、運営主体を広域化することで財政を強化するのが狙いと説明しているが、「さらなる国保制度の劣化を招く」との声が上がっている。

 厚労省によれば、国民健康保険は全国約1700の市町村で運営され、年間約3000億円の赤字だという。加入者の2割近い約370万世帯が滞納し、市町村財政を圧迫しているからだ。そのため、2018年から運営を財政規模の大きい都道府県に移す、というのだ。

 しかし、これは大きなマヤカシだ。立教大学のコミュニティ福祉学部の芝田英昭教授が言う。

「2015年に成立した国民保険法の改正法を読むと、『都道府県が市町村とともに国保の運営を行う』としています。つまり、国民が説明されてきたような都道府県への完全移管ではなく、都道府県、市町村双方で運営するということです。これは明らかな二重行政で責任の所在があいまいとなり、従来より運営が困難になる可能性があります」

 問題はそれだけではない。気になる国民健康保険の保険料率が、住民の代表たる議会抜きで決められる、ということだ。

「従来の保険料率は市町村議会で議論され承認を経ていました。それが2018年からは、議会のチェック抜きで都道府県が保険者代表や保険医、公益代表など形だけの運営協議会で議論し、市町村長の承認を得るという形になったのです」

 この意味は重大だ。これまで各市町村は、国保の赤字分は議会の承認が必要な一般会計部分から繰り入れて補填してきた。つまり、なんとかやりくりし、各市町村の許容範囲でギリギリ市民が払える額を算定していたのだ。ところが、“議会承認抜き”となると、他の一般会計からの繰り入れがきわめて難しくなる。当然、保険加入者の負担が増え、保険料はアップ。それが払えず、無保険者が続出する事態になりかねない。

 そもそも、国保は自営業者や農漁業者救済のシステムとして設立された。ところが、今の国保加入者の構成比率は無職が4割、非正規労働者が4割。こういう人たちの保険料はいくらが妥当なのか、想定していない。彼らにとって妥当でない保険料だからこそ、滞納が増えているのだ。日本総研の西沢和彦・上席主任研究員が言う。

「今の国保制度は子供が多い世帯ほど高くなるなど、支払い能力に応じた現実的な制度とは言い難い。それを改めずに運営主体だけ代えても解決になりません。いまは現実に即した適正な保険料の算出方法を考え、抜本的改革を目指すことが先決です」

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。