薬に頼らないこころの健康法Q&A

熊本地震が教訓 これからは支援側の寛容さと忍耐力が必要

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 しかし、このような時期も、1週間が過ぎ、2週間が過ぎするうちに、次第に限界に達してきます。皆、徐々にしゃべらなくなってきます。口をついて出る言葉といえば、愚痴と悪口ばかり。「いつになったら自衛隊は来るのか」「役場は何をやっているんだ」「東京のやつらはぬくぬくと過ごしてやがる」――そんな言葉が行き交います。

■支援とは被災者の難しい感情を克服すること

 被災者の中でも、運命に明暗が分かれてきます。親族が援助の手を差し伸べ、車に乗って、笑顔で立ち去っていった人もいます。行方不明だった家族と連絡が取れ、無事を確認し、涙ながらに抱き合っている人もいます。その一方で、自宅が完全に倒壊し、帰るところがなくなった事実を知らされた人もいます。「ご家族の死亡が確認されました」との報を受け取った人もいるのです。

 ボランティアとして現地に入る人は、被災者の神経を逆なでしないように慎重さが必要となります。被災者は援助を求めていますが、援助者に素直に感謝を表明できるほどのこころの余裕は持っていません。「どうせおまえらは帰るところがあるんだろう」と、そんな嫌みもつい言ってしまいたくなるような心境なのです。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。