「被災地では消毒が不十分なコンタクトレンズを使ったり、使用期限が守られないことが少なくありません。そのせいで角膜潰瘍を発症していることがあるので注意が必要です」
こう言うのは東京都眼科医会学術部委員で、「清澤眼科医院」(東京・江東区)の清澤源弘院長だ。
東北大学出身の清澤院長は東日本大震災の際、被災した複数の宮城県内の眼科医と連絡を取り合い、支援してきた。
「角膜は黒目を覆っている一番外側の膜です。その角膜を薄くしたり、にごりを生じさせるのが角膜潰瘍です。放置すると角膜穿孔が起こり、失明することがあります」
角膜潰瘍を発症させるのは不衛生なコンタクトレンズの使用だけではない。がれき撤去などで目に異物が入ったり、目をぶつけた後に細菌や真菌が感染しても発症する。東北では流行性角結膜炎が増加したという報告もある。
「熊本・大分では1000回に迫る余震が続いているそうですが、この病気は強いストレスだけで発症することもあります。目の中に異物を感じる、光がまぶしく涙が出る、痛い、という場合は我慢せずに眼科を受診することです」
被災者のなかには緑内障の点眼薬を使っていながら「震災で薬が手に入らなかったことをキッカケに点眼をやめた」という人もいるだろう。治療中断の恐ろしさを知っておくべきだ。
■一度失われた視神経は復活しない」
「原発性開放隅角緑内障は、眼圧が高くなることで視神経が障害を受け、視野が狭くなって視力を失う病気です。緑内障の薬はそれを防ぐため眼圧を下げる働きがあります。これを中断すると、視神経が圧迫され、徐々に視神経が失われていきます。一度失われた視神経は復活しません」
さまざまな目のトラブルの原因となるドライアイも震災後に自覚症状が出やすい。「東日本大震災前後のドライアイの変化」という研究論文によると、ドライアイ患者30人のうち17人が震災後に症状の悪化を自覚したという。悪化した時期が半年以内が18%、それ以降が82%だった。原因は震災後の継続的なストレスによるものだという。
「強いストレスを受けると交感神経が優位に働き、副交感神経が支配する涙の分泌が少なくなります。その結果、目の表面の潤いが失われるのです。また(避難所の)空調によってもドライアイは悪化するとされています」
インフラが破壊された被災地では夜十分な照明を得られないこともある。夕方になると見えなくなるので、網膜色素変性症のある人は苦労するかもしれない。
「網膜色素変性症は光を感じる網膜に異常が見られる遺伝性の病気なのです。初期では夜や薄暗いところで、見えにくくなりますが、昼間は気づいていない人もいます」
震災後の健康被害 これからが危ない