40代以上の男性も患者に 大人の「矯正歯科治療」早わかり

“見た目”を整えるだけではない
“見た目”を整えるだけではない(C)日刊ゲンダイ

 大人で矯正歯科治療を受ける人が増えている。20~30代の女性に加え、40~60代の男性も治療に訪れる人が少しずつ増えているという。日本で唯一の矯正歯科専門開業医の団体である日本臨床矯正歯科医会の富永雪穂会長(アルファ矯正歯科クリニック院長)に、大人の矯正歯科治療について詳しく聞いた。

■高齢期になっても楽しく元気に過ごしたい人が増加

 矯正歯科治療といえば、10代の成長期に行うイメージがある。なぜ今、大人になってから歯列や噛み合わせを治す人が増えているのか。

 人生の質を高める=QOLという概念が浸透し、70代、80代の高齢期になっても楽しく元気に過ごしたいと思う人が増えていることが大きな理由だという。

「そのためには、いかに自分の歯を多く残して充実した食生活が過ごせるかが重要になります。東京歯科大学の研究によると、80歳で20本以上の歯が残っている人のほとんどが、正しい歯列と噛み合わせを持っているという結果が出ています。大人になってからでも正しい歯列と噛み合わせを手に入れることができれば、歯を長持ちさせることができ、その後の人生も大きく変わってくるのです」

 矯正歯科を訪れる男性の多くは、「このままでは歯周病をより悪化させる恐れがあるから歯列を治したい」というケースが多いという。歯列や噛み合わせが悪いと、食べカスが除去しづらいうえ、一部の歯に大きな負担がかかってグラグラになり、歯周病を誘発しやすい。

 歯周病や虫歯で1本でも歯が抜け、そのまま放置していると、周囲の歯が抜けた隙間に倒れこんで噛み合わせが崩れたり、さらに歯を失うことにもなりかねない。

「歯周病は慢性疾患のため完治することはありませんが、矯正歯科治療で歯列や噛み合わせを治せば、一生、自分の歯を持たせることも可能です。ただ、歯周病は歯茎や骨の病気なので、きちんと管理せずに矯正で歯を動かそうとすれば、かえって悪化することもあります。矯正歯科専門医と歯周病を治療するかかりつけ医に同時にかかり、しっかりした連携のもとで治療を進めることが重要です」

 矯正歯科治療を受けている間は、2~3カ月に1度はかかりつけ医に歯周病の検診をしてもらうべきだという。

 クリニックの選び方も重要だ。

「全国共通の目安として、日本矯正歯科学会の『認定医』、または『専門医』の資格を持つ開業医を選ぶこと。大学病院でも構いません。加えて、日本臨床矯正歯科医会が推奨する『矯正歯科診療所受診の6つの指針』も参考にしてください」

 6つの指針とは、(1)頭部X線写真による検査をしているか(2)精密検査・分析・診断を行ったうえで治療を行っているか(3)治療計画・治療費を事前に説明しているか(4)治療中の転医や治療費精算を治療前に説明しているか(5)常勤の矯正歯科医がいるか⑥専門の歯科医衛生士がいるか――である。

■費用は80万円~120万円

 治療期間は、大人になると子供に比べ歯の動きが遅くなる傾向があるため、ブレースとワイヤを2~3年、歯列を安定させるためにリテーナーを使用してさらに2~3年かかるという。長期治療の覚悟が必要だ。費用は、一般的な矯正歯科治療は保険適用外なので80万~120万円程度かかる。決して安くはない。

 また、矯正歯科治療は担当医を安易に変更することが難しいため、治療開始前に何人かの医師からしっかり話を聞き、慎重に受診先を決めたい。

 矯正歯科は費用と時間はかかるが、見た目を整えること以上に、歯を正しく機能させ、年老いても自分の歯を保ち続けられるようにする効果がある。

 悩んでいる人は、メリットとデメリットを納得いくまでじっくり検討しよう。

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