独白 愉快な“病人”たち

エッセイスト・岸本葉子さん(54)虫垂がん

岸本葉子さん(C)日刊ゲンダイ

 結果を受けて自ら選んだのが、竹中文良先生がお勤めになっていた小さなクリニックです。先生は元日本赤十字社医療センターの医師で、著書に「医者が癌にかかったとき」があったので、ぜひ診ていただきたいと思ったんです。

 先生からは「組織検査をしないと断言できないけれど、ポリープの形からして限りなく悪性腫瘍に近いです」と。それが、いわゆる“告知”だったようです。ドラマのように改まって深刻に「あなたはがんです」とは言われませんでした(笑い)。

 すぐに紹介された日赤医療センターへ行くと、がん前提で手術の説明が始まり、「ベッドが空き次第、ご連絡します」と話が進みましたが、そこからが大変でした。入院までの1週間は、人生で一番多忙だったと思います。

 取りあえず「入院は1カ月以内」と聞いたので、取材済みや連載を前倒しで書き上げると同時に、関係各所に病名を伏せながら事情を説明したり、できない仕事はお断りの連絡を入れたりと、まるでコールセンターのように電話をかけまくりました。そういえばがんと告知された日の午後、よりによって江戸前の鍋についてのおいしそうな原稿を執筆。動揺しているはずなのに「やるしかない」という集中力で、かえっていい原稿が書けました(笑い)。

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