どうなる! 日本の医療

年3.9万円の保険料アップだけでは済まない!

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 国民健康保険の運営主体が「市町村」から「都道府県」に移ると、保険料がアップする。

 立教大学コミュニティ福祉学部・芝田英昭教授は言う。

「厚労省によると、全国市町村の国民健康保険の赤字額は3585億円。これが大問題にならなかったのは、住民の顔が見える市町村では住民負担が増えないよう一般財源からの繰り入れ(=法定外繰り入れ)で赤字を埋める工夫を凝らしてきたからです。しかし、都道府県が全体の医療費を推計し、市町村に徴収額を振り分ける2年後の新方式ではこうはいきません。議会承認という手続きが省かれた分、法定外繰り入れが難しくなります。つまり、あらかじめ赤字分を予想した上で、加入者の保険料をアップさせることになります」

 保険料はいくらアップするのか。厚労省の試算では、移管で年間約3万9000円上昇(13年)としている。問題は、この保険料は平均であって、実際はさらに高くなることだ。

「現在、国保の加入者の無職者の比率は4割。所得があっても年間所得が100万円未満の世帯も半数います。実際に国民健康保険料を負担する人は、それらの世帯をカバーすることになる。いまも国民健康保険の保険料を払っている人の負担は他の健康保険と比べて高く、年間収入の9.9%に上ります。新方式では保険料を払える人の負担がさらに増えるでしょう」

 しかも、新方式では、すでに「過酷」といわれる国民健康保険料の徴収がエスカレートする可能性が高い。

「鳥取で滞納農家が最後はトラクターやコンバインを差し押さえられたケースも報告されています。地方税法上、“生活の主たるものは差し押さえてはいけない”とされていますが、背に腹は代えられないというわけです。運営が都道府県に移った後も徴収率が上がらなければ、市町村に補助金カットのペナルティーを科し、徴収はさらに厳しくなるでしょう」

 その結果、ただでさえ多い国民保険料滞納者が激増し、無保険で医者にかかれない人が全国に蔓延することになる。

 すでに、国立社会保障・人口問題研究所の調査(13年)では「公的医療保険未加入で医者にかかれなかった」人が約50万人いるという。その“予備軍”となる保険料滞納者は、約124万人。内訳は、6カ月以上1年未満の滞納者で「短期被保険者証」(有効期間6カ月)により受診できる人が101万人。医療費はいったん全額支払うものの、のちに7割が返ってくる。

 滞納期間が1年以上1年6カ月未満の人は23.4万人。国民健康保険証返納となり、役所が発行する「資格証明書」での受診となる。医療費は全額自己負担だ。

「短期被保険者証や資格証明書の人はすでに崖っぷちで、保険料がアップすれば無保険者に陥る可能性は高い」

 新方式は国民皆保険崩壊の引き金になりかねない。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。