震災後の健康被害 これからが危ない

<第4回>初期症状は空腹時や食後の痛み 「震災胃潰瘍」に要注意

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 熊本では震度7の2回を含め、震度1以上の揺れが900回を超えた。その強いストレスが原因で胃や腸に信じられないような病変が起こるケースが多発するという。東京都医師会の理事で「鳥居内科クリニック」(世田谷区)の鳥居明院長(消化器内科)が言う。

「過去の震災でも地震への恐怖心が強いストレスとなって急性胃粘膜病変(AGLM)が多数発症したことが報告されています」

 強烈なストレスが胃に潰瘍を引き起こす例はラットによる過去の動物実験でも証明されている。AGLMの最初の症状は空腹時や食事後の上腹部痛から始まる。この時点で内視鏡検査すると胃や十二指腸に多くの急性潰瘍、びらんが発見される。

 健康な胃は胃酸から胃壁を守るため、胃粘液を分泌して胃壁の表面を守っている。強いストレスなどで自律神経が乱れると胃粘液と胃酸のバランスが崩れ、胃酸が多くなり、胃の粘膜を急激に痛め荒らすのだ。この状態を放置しておくと、潰瘍部分の血管が破れる出血性潰瘍となり痛みとともに吐血、下血を引き起こす。最悪の場合、胃に穴が開いて、腹膜炎を引き起こし、死に至るケースさえあるという。

■被災10日~14日目がピーク

 実は大地震発生10日目から2週間後にかけて、こうした患者が数多く出ることは、東北大学病院卒後研修センターの菅野武医師らの研究でも明らかになっている。それによれば東日本大震災発生から3カ月で東北地方の基幹7病院では「消化性潰瘍」患者が383例報告されたという。これはその前年に比べて1.5倍多かった。そのうち出血性潰瘍は前年の2.2倍の257例にも上った。

「特にかかりやすく重篤になりやすいのはピロリ菌保菌者です。ピロリ菌があると分かっている人は特に気をつける必要があります。高齢者の場合には地震の恐怖、避難所の大きな環境変化などに対応できずストレスを抱えやすいのでAGLMにかかりやすい。高齢な被災者のケアはとくに大切です」(鳥居医師)

 対策はどうするか。

「できるだけ速やかに医師の診断を仰ぎ、胃酸の分泌を抑制するH2ブロッカーやPPI(プロトンポンプ阻害薬)などで対処すれば重篤になる以前に改善されます」(鳥居医師)

 鳥居医師によれば、震災直後に多くなるのは運動不足などやストレスからくる便秘や下痢などの便通異常や「過敏性腸症候群」。左下腹部などに痛みなどが出るという。便秘は放置すると最悪の場合、腸閉塞などで穴が開く場合があるという。こちらも対処が早ければ軽度で済むので、早めに医師に相談し、早めに治療を受けることだ。

 胃腸は心の鏡、ストレスはストレートに胃腸を直撃することを覚えておこう。