薬に頼らないこころの健康法Q&A

心のケア不要 被災者に必要なのはプライバシーと薬剤確保

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

「よそ者に心の中を打ち明けて、何の意味があるのか」

 そのように被災者が思ったとしても、それは無理もなかったのです。

 震災後、被災者たちの心身の健康を支援することは必要です。しかし、「心のケア」の虚実の乖離は認識しなければなりません。「心のケア」とは一種の「行政用語」「マスコミ用語」であり、現場で求められることは、言葉でイメージされるような「お悩み相談」ではありません。

 阪神・淡路、東日本大震災などの支援を通じて、精神保健従事者は災害精神医学の実践知を蓄積しています。このようなことから、被災者の被害体験に触れるような「心のケア」は、かえって有害だと認識しています。

 それでは、精神保健ボランティアたちは、今、現地で何をしているのか。それは、地震直後にあっては、地域の保健資源の現状把握と被災者のプライバシーの尊重、心の持病を悪化させないための薬剤供給の確保でした。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。