安全性もアップ 致死性不整脈に新治療登場で何が変わる?

新治療では本体もリードも皮下に植え込む
新治療では本体もリードも皮下に植え込む(C)日刊ゲンダイ

 不整脈の持病を抱えていたお笑いタレントの前田健さんが44歳で突然死した。日本では年間10万人の突然死があり、うち7万人が心臓異常。7分に1人が心臓突然死を起こしている計算になる。

■心臓に触れずに心臓を守る

 心臓突然死を引き起こす原因の大半が不整脈だ。不整脈にはいくつか種類があり、心室細動や心室頻拍といった突然死に直結しているものを致死性不整脈と呼ぶ。それに対する新治療「完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)」が今年から保険適用になった。

 植え込み型の除細動器(ICD)は、体内に電気ショックを送る「本体」と、心臓の電気信号を本体に送信して本体から送られた電気ショックを心臓に伝える「リード」で成り立っている。この2つで心臓を挟み、致死性不整脈が発生した時に心臓に電気ショックを送り、正常な心拍に戻す。

 通常のペースメーカーは脈拍が遅くなる徐脈の治療に使われる。ICDは致死性不整脈に対して使用され、ペースメーカーより大きく重い。これまでICDは、本体は皮下、リードは心臓内に埋め込む「経静脈ICD」しかなかった。新治療が大きく異なるのは、本体もリードも皮下に植え込む点だ。済生会熊本病院不整脈先端治療部門・奥村謙最高技術顧問は、メリットは大きいと話す。

■重篤なリスクをすべて回避

「経静脈ICDは致死性不整脈の治療には欠かせませんでしたが、3つのリスクがありました」

 すべて心臓内のリードに関わることで、①心臓や血管を損傷し突き破る=心臓穿孔、②細菌が付着し感染性心内膜炎を起こす、③血管に癒着したり静脈閉塞を引き起こすため、リードの不具合や感染性心内膜炎などを起こしてもリードの追加や抜去は困難の3つ。経静脈ICDによって致死性不整脈は阻止できたが、①~③で重篤となるケースも珍しくなかった。

「しかも、3つのリスクと一生付き合わなければなりません。植え込み手術の後、10年間でリードの3割はなんらかの不具合が生じ、交換が必要になります。その再置換リードにも同様の危険が伴います」(国立循環器病研究センター・石橋耕平医師)

 心臓内にリードを埋め込む3つのリスクに不安を抱き、特に若くしてICDの適応となった患者の中には、治療を先送りにする人もいた。しかし新治療では、本体もリードも皮下に植え込む。心臓内のリードの植え込みによる3つのリスクがすべて解消できるのだ。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の西井伸洋医師が、新治療S-ICDを行った患者の一人は17歳の野球少年。過去、運動中に意識消失を何度か起こしていた。最近、完全に意識消失し、AED(体外から電気を心臓に与える外除細動器)で一命をとりとめた。西井医師らの検査で致死性不整脈が認められ、手術が行われた。

 全身麻酔や鎮静後、胸部左側に小さな切れ込みを入れ、本体を皮下に入れるポケットを作る。ここまでは従来法も同じ。新治療では、胸骨の近くに2カ所の小さな切れ込みを入れ、皮下に固定したリードを本体に取り付け、専用機器で確認・調整をする。

「患者さんの感想では、手術直後はリード線付近にあった疼痛は1週間で消え、日常生活の制限はなし。激しい運動は控えてもらっていますが、バットの素振りは今できています」(西井医師)

 服を脱いでも、体内へ植え込んだリードはほぼ分からず、手を下ろしていれば本体が植え込んであることも分からない。

 奥村、石橋、西井医師は、全員が新治療S-ICDの手術を何例もこなしている。口をそろえるのが「3つのリスク解消で、治療の安全性は大幅に高まった」という点だ。

 4月末時点で、国内では80施設以上でS-ICDが実施できるようになっており、33施設ですでに治療を行っている。すべての致死性不整脈にS―ICDが適用されるわけではない。主治医に相談を。健康保険適用。

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