世界が注視する最新医療

小型化「メディカル・トライコーダー」で診断に劇的変化

今では健康管理もスマホの時代
今では健康管理もスマホの時代(C)日刊ゲンダイ

 1960年代に日本でも放映された米国のSFドラマ「スター・トレック」を覚えておられる人も多いと思います。といっても、劇中で使われていた「メディカル・トライコーダー(MT)」をご存じの方は、かなりのマニアに違いありません。

 マッコイ医師が肩にさげていた弁当箱サイズの装置で、人体をスキャンしてあらゆる病気・ケガを診断できるという優れものでした。その後、シリーズを重ねるごとに小型化され、今世紀に入ってからはスマートフォンに似た大きさと形状になっています。

 長らく、MTは架空の装置に過ぎませんでした。ところが2012年に状況が一変します。米国の通信大手であるクアルコム社が、「実用的MTのコンテスト」を呼びかけたのです。1等賞金は1000万ドル(約10億円)。最終結果は来年にならないと分かりませんが、当初は世界中から300チーム以上のエントリーがありました。その後、段階的に淘汰され、現在は10チームほどが残っています。

 中でも米国のシリコンバレーに拠点を置くScanadu社は、「Scout」と命名した完成度の高い装置を開発し、一歩リードしています。装置は直径約5センチ、厚さ約1センチの円盤状で、指でつまんで額に押し当てるだけで、血圧・脈拍・体温・酸素飽和度・呼吸数・簡単な心電図などを測定し、その結果をスマートフォンに転送。アプリを使ってデータを解析できるほか、インターネット上のサーバーにデータを蓄積したり、医師に送ってアドバイスを受けたりすることも可能です。すでに数十カ国で8000人以上のモニターが使用しています。

 家電量販店で大量に売られている活動量計と似ていますが、活動量計が主に運動や消費エネルギーのモニタリングを主眼としているのに対し、MTは完全に医療用を目指しています。クアルコム社のコンテストでは、少なくとも15種類の一般的な病気・症状を診断でき、かつ継続的にモニターできることを要求されています。

 本格的なMTが普及すれば、医療の在り方そのものが大きく変わってしまうかもしれません。数値を常にチェックできるため、生活習慣病の予防や管理がより容易になり、医者にかかる回数が今よりだいぶ減るはずです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。