軽症ならほぼ完治なのに 「ケロイド治療」意外な落とし穴

きれいに治っていてもある時期急に悪化も
きれいに治っていてもある時期急に悪化も(C)日刊ゲンダイ

 傷痕などが赤く盛り上がる肥厚性瘢痕やケロイドはだれにでも発症・悪化のリスクがある。どういう治療法があるのか?

「適切な治療によって、肥厚性瘢痕やケロイドは見た目がほとんど分からない程度にまで『治る』。ところが、それを分かっていない医師も多い」

 こう話すのは肥厚性瘢痕・ケロイド治療の第一人者、日本医科大学形成外科学教室・小川令主任教授。小川教授の外来には「別の医療機関で治療を受けたが、よくならなかった」という患者が全国からやって来る。

 外傷や手術などで傷ついた箇所は、回復する過程で盛り上がるケースがある。また、ピアスやニキビの痕、引っかき傷などが、同様の状態になることもある。

 一般的に、赤い盛り上がりが残っていれば肥厚性瘢痕、赤い盛り上がりが傷痕周辺の正常組織にまで広がり続けるのがケロイドだ。治療は飲み薬、塗り薬、貼り薬、注射などの保存療法と、手術または放射線治療がある。

「当院では、肥厚性瘢痕とケロイドの患者だけで年間2000人ほどが来院します。重症例も多数ありますが、手術が必要なのは1割程度です」

 医師の間でも認知度が低い今、適切な治療を受けるには、患者もポイントを押さえておかなくてはならない。

 まず、治療は早い段階で検討すべき。肥厚性瘢痕とケロイドは、連続的な関係にある。いくつかの因子が加わることで、小さな傷痕が重症ケロイドに至るケースは珍しくない。

■一気に悪化の恐れも

「因子とは、『肩、腕、膝などよく動く場所に傷痕がある』『高血圧』『妊娠などで女性ホルモンの影響を強く受ける』など。これらは、重症ケロイドの人に見られることがあります」

 60歳になるまで傷はきれいに治っていた。しかしその後、高血圧や心筋梗塞を発症して心臓の手術を受けたことで、一気に重症のケロイドが胸にできた。こういうケースは少なくない。

「軽症の段階で治療を受けていれば、貼り薬など簡単な治療で済みます。大きくなるまで放っておいたために、全身麻酔の手術になることも。特に、妊娠を考えている女性は、将来のリスクを考えて早い治療を勧めます」

 痛みやかゆみ、見た目の悪さなどを訴えて来院する患者が多いが、その前に手を打つことも考えたほうがいいのだ。

 次に、前出の通り、保存治療で治る患者がほとんどだということを知っておく。

「私は、肥厚性瘢痕やケロイドの箇所、大きさ、患者の既往症、全身状態などから総合的に判断し、複数の治療からベストのものを選びます」

 しかし、ケロイドの治療に詳しくない医師は、痛みを伴う注射だけで治療を進めたり、不十分な作用の貼り薬を延々と使う。それが「治療を受けたが、よくならなかった」という結果につながる。受診するなら、複数の治療の選択肢を提示する医師を選んだ方がいい。

 さらに、手術の場合は放射線治療を組み合わせると再発リスクが減ることを押さえておこう。

「症状の程度によっては手術が治療の第1選択になります。一方で、手術は肥厚性瘢痕やケロイドの再発を招くリスクがある。そのため、手術を勧めない医師もかなりいますが、放射線治療との組み合わせで再発リスクが2~3割以下に抑えられるのです」

 ケロイド治療で用いられる放射線の線量はがん治療より少なく、50年近い臨床と研究によって「この箇所にはこれくらいの線量」というプロトコルが現在は確立されつつある。

 肥厚性瘢痕やケロイドと診断されれば、治療は保険適用。対応する科は形成外科になる。

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